残した影�� ページ19
仕事の日。
この間の絵を見た日から、更に抜け殻のようになった俺は、仕事にも身が入らなくて。
重要な書類のミスをした俺は、上司に酷く怒鳴られていた。
耳がキーンとするような怒鳴り声を聞きながら、半分は自分のミスにへこみ、半分は智のことで落ち込んでいた。
ようやく上司の怒鳴り声から解放された俺は、間違えた書類を自分のデスクの上に置き、溜息をつきながら部屋を出た。
トイレに向かってトボトボと廊下を歩いていると、後ろから肩をポンッとされた。
立ち止まって振り向くと、ビシッとしたスーツを着た男の人が立っていた。
「おい、大丈夫か？」
心配そうな顔で声を掛けてきたのは。
違う部署の先輩の、櫻井さんだ。
櫻「あの言い方はないよなぁ。自分だって、しょっちゅうミスして、しかも部下に責任押し付けてくるくせにさぁ。聞いてるこっちが腹立ってくるわ」
和「櫻井さん…」
櫻「気にすんなよ。ミスなんて誰にでもあんだから」
和「…すいません」
櫻「それより、お前大丈夫？なんか、最近妙に元気がない気がすんだけど。なんか、仕事よりそっちのが心配だわ」
和「いえ…大丈夫ですよ…」
櫻「お昼ご飯一緒にどう？ご馳走するけど？」
和「………」
櫻「俺で良かったら話聞くよ」
櫻井さんの優しい言葉に、下唇を噛みながらコクンと頷いた。
櫻井さんと会社から少し離れた定食屋へ行き、俺は酒でも飲んだかのような勢いで智とのことを話し、それを櫻井さんは黙って聞いてくれていた。
櫻井さんは、俺とは違う部署で直属の先輩ではないけど、俺が入社した当時から俺のことを気にかけてくれて、よく面倒を見てくれる兄貴肌な先輩。
話せば話すほど、今まで我慢していた感情が溢れ出し、うっかり櫻井さんの胸に泣きついてしまいそうだった。
櫻「そっかぁ…それは辛いよなぁ。理由も分かんねぇんだもんなぁ…」
和「…すいません、なんか…勢いよくしゃべっちゃって…」
櫻「連絡も取れなくて、どこにいるかも分かんないんじゃ、どうしようもねぇよな」
和「ええ…」
櫻「どうすっかねぇ…」
櫻井さんは、食べ終わった食器の乗ったおぼんを少しずらし、テーブルの上に腕をついた。
指で挟んでいるタバコから、ふわりと煙が上がっていく。
その腕についている高そうな腕時計が、より映えて見える。
まるで自分のことのように悩む櫻井さんの姿は、誰が見てもイケメンだった。
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作者名：さくら 樹里
| 作成日時：2018年8月8日 16時
