濃藍のうた〔N O〕 (ページ17)

今日:7 hit、昨日:20 hit、合計:61,953 hit

残した影③ ページ17

色鮮やかな主張の激しい雑誌には目もくれず、その画用紙を手に取った。

鉛筆だけで描かれた色のない絵をジッと眺めた。

この鉛筆の線とぼかし方に見覚えがあった。

ニ「コレ…」

相「んー？」

ニ「ねぇ、この絵って…」

相葉君に向かって、その画用紙をかざした。

相「あーそれぇ？この間、検査受ける時の待合室で、隣に座ってた人から貰ったー」

ニ「えっ！ね、ねっ、それって、どんな奴だった！？な、名前は！？」

相「イッテ‼ イッテ‼ お前、足触んなってぇ‼(泣)」

興奮のあまり、つい相葉君のギブスを巻いた方の脚を手で揺らしていた。

ニ「あああ、ごめんごめんごめん！！！」

相「いってぇ…マジ鬼だよ(泣)てか、急にどーしたの！？」

ニ「ホント、ごめんな！！あーなんていうか…この絵を描いた人って、どんな人だったかのかなって…」

相「え～、名前なんて聞いてないし、あんまよく覚えてないけど、男の人で、なんか可愛い顔した人だったよ？」

ニ「可愛いって…もしかして、そいつタレ目だった！？」

相「え～、タレ目っちゃあ、タレ目だったのかなぁ？あ！そーいえば、下の歯が一本、変なとこに生えてた」

ニ「！！」

相葉君の言葉で確信した。

智だ・・・

智は、下の歯が一本、ぴょこって変な所に生えていた。

それに・・この絵。

この鉛筆の線の描き方とぼかし方。

今まで飽きるほど散々見てきた、智特有のタッチ。

俺の脳に、しっかりとこびりついている。

間違いない。

この絵を描いたのは、智だ。

ニ「なっ、なぁっ…なんで、この絵を貰うことになったんだよ？」

相「なんかね～、その人、隣でずっと鉛筆持ったままその絵を眺めててさ～、俺、待合室ですっげー待たされて退屈だったから覗き込んでみたら、超上手かったから話し掛けちゃった」

ニ「人見知りのお前が、よく話し掛けたじゃん」

相「そうなんだけど、歳が近そうだったし、話し掛けやすそうな人だったからさ？でね、超上手いですねって言ったら、この絵これ以上は描けそうにないって言うから、俺貰っていい？て聞いたら、いいよって」

これ以上、描けそうにない…

智であろうその人の言葉に、胸がギュッと締め付けられた。

鉛筆で描かれた、無機質な絵。

人の手が描かれた絵だ。

折り曲げられた中指と薬指と小指が、何か線のような物を押さえている。

これはきっと。

ギターの弦を押さえている手を描いた絵だろう。