残した影�� ページ15
智が家を出ていってから、2ヶ月が過ぎた。
季節はすっかり、冬へと変わっていた。
だけど、俺の心はあの日のまま。
金木犀の香りが漂う時期に、突然訪れた別れ。
俺はいまだに、智の影を追っていた。
今頃、どこで、何をしているのだろうか。
智は今、何を思っているのだろうか。
そんなことを思う時間だけが、あっという間に過ぎていく。
あの日、智は。
『俺のことはもう忘れて』と言った。
なんでなんだよ…
どうして、智のことを忘れなきゃいけないんだよ…
忘れられるわけねぇだろ…
そういうお前は、俺のことなんてもう、忘れたのかよ…。
何も聞けずに、逃げられてしまった自分。
理由も言わずに去っていくあなたを、追いかけることが出来なかった。
どうして、何も言ってくれなかったのか。
どうして、智は出ていってしまったのか。
どうして、俺達は別れることになってしまったのか。
あの日からずっと分からないまま。
俺に原因があったのなら、言ってほしかった。
理由も分からずにフラれるなら、「嫌いになった」と言われた方が良かった。
こんなに虚しい終わり方をするなら、派手に喧嘩をして別れた方が良かった。
一番最悪で、一番悲しい別れ方だった。
どうしても修復出来なかったのなら、せめて理由だけでも聞きたかった…
後悔より未練よりも、もっと強い念に縛られたままの俺は、きっと何年経っても次の恋愛に進むことなんて出来ないのだろう。
そんな暗い世界に閉じこもったままの俺に、ある連絡が入った。
大学の時、仲良かった友達が、交通事故に遭って入院をしたというのだ。
幸い、命に別状はないらしいが、右脚の骨折で、しばらく入院が必要らしく、病院で過ごす毎日が退屈で仕方ないと嘆きのメールが送られてきた。
そういえば、智と同棲を始めてから一度も会っていなかった。
久しぶりに顔が見たいという気持ちもあって、土曜日で仕事が休みの俺は、その友達のお見舞いに行くことにした。
本音は、心配で様子を見たいというよりも、ひとりぼっちで家にいるのが嫌なだけだった。
俺の家から、電車を乗り継いで行かなければいけない場所にある大学病院。
面会用の入り口から入り、受付で面会の手続きを済ませ、教えてもらった病室へと向かった。
病室の前に着き、部屋番号とネームプレートを見た。
プレートに書かれた『相葉雅紀』の文字を確認し、俺は部屋のドアをノックした。
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作者名：さくら 樹里
| 作成日時：2018年8月8日 16時
