あなたの居ない部屋�� ページ12
あの日から俺の心の中は、空っぽだ。
ガランとした部屋でひとり、壁に寄りかかって座っている自分。
部屋が広く感じるのは、この部屋に引っ越す前に来た見学の日以来だ。
いつも散乱していた色鉛筆と画用紙が無いテーブルの上はキレイで。
それが余計に寂しさを際立たせた。
部屋のあちこちに投げ捨てられていた、失敗作の紙くずも無い。
画材道具の無くなった部屋は、俺のアコースティックギターとキーボードだけが浮いて見える。
ミュージシャンかよって。
あんなに狭いと思っていたのに。
隣に智がいないだけで、部屋が広く感じる。
理由も分からず、あの日、智は。
キャンバスと、1本の絵の具だけを残して。
雨の中へと消えていった。
ひとりぼっちになった俺は。
会話の代わりに、鼻歌を口ずさんだ。
智のお気に入りのあの曲を。
だけど。
どうしてもハモリのパートを歌ってしまって、成り立たなかった。
どうしようもなくて、壁に立て掛けてあるアコースティックギターを手に取った。
左手の指で弦を押さえ、右手の指で優しく弦を弾いた。
智のお気に入りの曲の伴奏を、ギターで弾き始めた。
実は、智には内緒で練習していた。
いつか俺のギターの演奏に合わせて、一緒に歌おうと思っていた。
鼻歌なんかじゃなくて、ちゃんと歌詞を入れて。
だけど、それが叶う前に、智は俺の隣から居なくなってしまった。
だから、歌のない伴奏だけが、虚しく部屋の中で鳴り響いた。
智は、俺の弾くギターの音色を気に入っていた。
麦色で落ち着くって。
なんだよ、麦色て。
全然意味分かんねぇよ。
ちなみに、俺がキーボードで弾くピアノの音は、薄紫色で綺麗だと言っていた。
一体、お前の頭の中はどうなってんだよ。
悪いけど、俺は一度だって共感したことないからな。
そうやって言えば、智はきっと「つまんないね」て言うだろう。
「お前の頭がおかしいんだよ」て言えば。
「カズの想像力が足りないんだよ」て返ってくるだろう。
「変人」「変態」「うるせぇ」「本当のことじゃん」「ばーか」「バカって言う方がバカだ」て、小さな小さな下らない喧嘩が始まって。
なんでこんなに喧嘩が絶えないのかって思ってきたけど。
今では、そんなくだらない喧嘩が恋しくてしょうがない。
あんなにそばにいたのに。
隣にいないのが、信じられないよ…
ギターをそっと置いて、俺は膝を抱えて一人で泣いた。
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作者名：さくら 樹里
| 作成日時：2018年8月8日 16時
