それでも俺達は幸せだった�� ページ11
それからも俺達は、一緒の時を過ごした。
いつものように喧嘩を繰り返しながら。
それでも変わらず、ずっと一緒にいたんだ。
それなのに・・・
その日は、スッキリとしない天気が一日中続いていた。
濁った夜空の中、仕事から帰ってきてみると、家の中が妙な違和感に包まれていた。
その妙な違和感の正体は。
部屋がキレイに片付いていたんだ。
というよりも。
荷物が減っていたんだ。
智の画材道具が一つも見当たらなかった。
色鉛筆も、絵の具も、スケッチブックも、画用紙も。
唯一残っていたのは、壁に立て掛けてある、絵の描かれたキャンバスと、テーブルの上に絵の具が1本。
その妙な光景を呆然と眺めていると、部屋にパチンッという音が響いた。
いつもは敷きっぱなしの布団が今日はキレイに畳まれていて、布団の代わりに智が俺に背を向けた状態で座っていた。
その智の前には、スーツケースが置かれている。
どうやら今の音は、スーツケースを閉じた音のようだ。
和「さとし？」
俺が声を掛けた途端、智は立ち上がってクルリと俺の方へ振り返った。
何も言わずに俺の顔を見る智。
その智の目が、赤かった。
和「…どうしたんだよ」
智「………カズ」
和「うん…？」
智「………今まで、ありがとう」
智からの突然の言葉に、頭の中がフリーズした。
和「えっ…？」
智「………俺、出てくね」
和「…え、ちょ…なに言って…」
智「………別れよう、カズ」
和「えっ………」
智「………俺のことはもう…忘れて」
そう言って智は、スーツケースを引いて玄関へと向かった。
ガラガラと響く音。
俺は急いで、智の腕を掴んだ。
和「待てよ、さとし！」
引き止めた俺に向かって、智はゆっくりと振り向いた。
そして。
智「………さようなら。カズ……」
悲しそうな顔をして、腕を掴む俺の手をそっと離し、再びスーツケースを引き始めた。
そのまま玄関の扉は開かれ。
いつの間にか降り出した雨の中へと、消えていった。
その姿を、黙って見ていることしか出来なかった。
訳が分からなくて、動けなかった。
追いかけることも出来ず。
静かな部屋で、雨の音だけを聞いていた。
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作者名：さくら 樹里
| 作成日時：2018年8月8日 16時
