いざ戦場へ ページ37
わざと間を空けて、後を追った。
相葉くんに気付かれないように。
突き当たりの廊下を曲がったのを確認すると、ゆっくりと近付いていった。
角を曲がる直前で足を止め、耳を澄ました。
すぐそこから、相葉くんの小声が聞こえてくる。
姿は見えなくても、声を潜めて電話をしている様子が手に取るように分かる。
ダメだと分かっていながら、俺はその場で耳を澄ましていた。
相「…うん、うん。ごめんね。じゃあ、帰る時また連絡するから。うん。はーい。じゃあね、おやすみ」
小声とはいえ、いつも交わしているだろうカノジョとの会話を聞いて、胸が締め付けられた。
本当は途中で、電話を奪い取ってやりたいくらいだった。
今にでも爆発しそうな気持ちをグッと堪えながら、電話を終えた相葉くんが戻ってくるのを分かってて、その場を動かなかった。
案の定。
角を曲がって戻ってきた相葉くんが俺の姿を見た途端、びっくりしたようにピタッと足を止めた。
相「翔ちゃん…」
櫻「………」
相「こんなとこで何してんの…？」
櫻「…別に？」
相「もしかして…盗み聞きしてたの？」
櫻「…だったら？」
相葉くんの、俺を見る目が険しくなった。
相「最低だよ、翔ちゃん…そんなことするなんて」
相葉くんの言っていることはごもっともで、何も間違ってはいないのに、俺のイライラは更に募った。
櫻「そんなコソコソされると、余計気になんだよね」
悪びれる様子なんて見せず、逆に腕を組んで偉そうに言い返した。
相「…翔ちゃんには関係ないじゃん」
櫻「関係ない？へぇ…」
相葉くんの言葉で、俺の逆上スイッチが入った。
目の前の突き当たりの壁に貼ってある『大浴場➡』というプレートが目に入った。
チラリと自分の腕時計を確認すると、0時を過ぎていた。
俺はすかさず、相葉くんの腕をガッと掴んだ。
相「わっ！ちょっと、なに！」
櫻「あっちでゆっくり話そうぜ」
そう言って、強引に腕を引いて大浴場の方へと向かった。
抵抗する素振りを見せながらも、なんだかんだ付いてくる相葉くん。
本気で抵抗していないのはすぐに分かった。
貸し切りの時間帯になった大浴場の脱衣所には、もちろん人は誰もいなかった。
長いのれんで仕切られた、僅かに熱と湿気の残るこの空間で、相葉くんと二人きりになった。
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作者名：さくら 樹里
| 作成日時：2018年6月23日 21時
