電話の相手 ページ3
相葉くんは分かりやすい。
だからこそ、電話の相手が誰なのかすぐに分かってしまう。
もしも電話の相手が相葉くんのお母さんだったら。
「あれ？母ちゃんからだ。何だろ？」て言って、電話に出る。
もしも電話の相手が風間だったら。
「あっ、かざぽんから電話だ！」て言って出る。
もしも仕事関係の電話だったら。
「誰だろ？」とか「何だろ？」て言って出る。
だから。
電話の相手が分かっている上で、「ちょっと電話してくるね！」と相手の名前は出さずに、コソコソと隠れるように退室する時は、名前も出せない相手。
そう、つまり。
相葉くんにとって特別な人。
恋人だ。
会ったこともない、顔さえも知らない。
相葉くんのカノジョ。
それは、相葉くんの口よりも先に、事務所からの呼び出しで聞かされた事実だった。
その数日後には、週刊誌やネットを通して、多くの人々に知れ渡ることになった。
そんな『カノジョ』の存在をメンバーの誰一人として知らなかった俺らは、その人のことについては、誰も深く追求することはしなかった。
むしろ、踏み込んではいけない所だと、繊細な物をやんわりと撫でるようにしか触れられなかった。
そんなわけで、俺はそのカノジョのことを何も知らない。
何て名前なのかも。
どんな顔なのかも。
何で知り合った人なのかも。
どうして付き合うことになったのかも。
相葉くんが、何故彼女を選んだのかも。
彼女のどういう所に惹かれたのかも。
何も知らない。
ただただ俺の頭の中で描くカノジョと、相葉くんが幸せそうに過ごす姿を想像することしか出来ない。
なあ。
カノジョと一緒に居る時、キミはどんな顔をしているんだよ。
キラッキラな眩しい笑顔を、その人の為だけに向けているのかよ？
どんな目で彼女を見つめ、どんな風に彼女に触れているんだよ…。
どうして俺じゃ、キミの特別にはなれないんだよ…
そんな考えを、何度ヘビーローテーションさせてきただろうか。
すっかり頭に入らなくなった新聞を翳したまま、どこを見ているかも分からない俺の前に、相葉くんがスマホを持って戻ってきた。
相「あー、今日早く帰れたらいいなぁ〜」
櫻「どうだろうね(笑)」
意味深な言葉を呟く相葉くんのスマホをジッと睨んだ。
ああ。
キミが今電話してきた相手が、俺は憎いよ。
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作者名：さくら 樹里
| 作成日時：2018年6月23日 21時
