名演技 ページ16
あれから、あっという間に毎日が過ぎていき。
気付けばもう10月の末になっていた。
にのは変わらず、彼女と付き合っている。
だけどまだ、結婚についての具体的な話は進んでいない。
事務所から許可が出ているとは言え、二人のタイミングもあるだろうし。
もしかしたら、このまま別れるなんてこともあるかもしれない。
…その方が、俺にとっては好都合だけど。
んや。
俺じゃなくて、にのにとっても本当はその方がいいはず。
だって、そうじゃんか。
親孝行の為とは言え、そんなに愛してもいない相手と結婚するなんて、どう考えたって楽しくない。
どうせ結婚しちまうなら、本当に好きな人と結婚してほしいよ。
…なんてカッコイイことも言えないで、俺はただ黙って見守っているだけ。
そんな日々が、ただ続いているだけだったのに。
ついに、にのが事務所と俺らメンバーに、結婚の意思を表明した。
彼女との結婚を考えていると。
籍を入れるタイミングは、事務所からの条件に従った上で、彼女と相談すると。
この時点でもう、にのの結婚はほぼ確定だ。
そっか…
本当に結婚しちまうんだ。
事務所や俺らに報告する時の、ちょっと照れくさそうな、でも嬉しそうな仕草と表情。
大した役者だよ。
そのうちきっと、公にも正式に発表されるだろう。
そしたらにのは、もっともっと色んな人から祝福の声を掛けられるだろう。
その度にお前は、絶妙な演技をしてみせんだろうなぁ。
にののことだから、もしかしたらその頃には、彼女に新しい命も宿ってるかもしれない。
そしたら、きっと記者達に
「父親になるお気持ちはいかがですか？」
なんて聞かれて
「いやぁ…自分が父親になるなんて、まだ信じられないです」
とか言うんかな。
そんな名演技を、俺は黙って笑って見てんだろうなぁ。
にのの為と思って決めたけど。
やっぱり幸せそうな演技をしているにのを見るのは辛かった。
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作者名：さくら 樹里
| 作成日時：2018年9月10日 12時
