悲しき役者の人生 ページ14
にのの隠された本心と真実。
それは、決して表には出せない裏の事情で。
それをずっと一人でひた隠しながら、彼女を愛する男を演じて、報道を知る人々を欺いていたんだ。
事務所はもちろん、俺らメンバーをも。
そして。
彼女までも。
にののやっていることは、最低だ。
だけど…
真実を知って、にのを責められない自分がいる。
ニ「…最低だよねぇ、俺。引きました？」
大「………」
ニ「引いて当然だと思うよ。結局は、彼女のこと騙してんだから」
大「………」
ニ「でももう後には引けないし、俺は最後まで演じきってみせるよ」
爪をイジりながら淡々と言うにの。
その様子から、この人生の選択に腹をくくっているんだと感じた。
んでも…
大「…そんなことまでして結婚して、子供作って…そんなん、本当にお前の親が喜ぶんかっ！」
ニ「だから、それも演じてみせるよ。彼女を真剣に愛してて？彼女との結婚を心から喜んで？彼女との間に出来た子供を嬉しそうに見せる息子。幸せそうな息子の姿こそ、親の幸せでしょ？」
大「んなもん、偽物じゃねぇかっ！」
ニ「偽物だって気付かれないようにするに決まってるでしょ。俺の演技力舐めてもらっちゃ困るよ？…まあ、あなたには通じなかったけど。でも、偽物だって知ってるのは、あなただけだから」
大「なんでっ…なんで、そこまですんだよ」
どう考えても、にのにとって重たい辛い人生になるだろうと思うと、自分の方が辛くなった。
大「そこまですることないじゃんかっ…」
ニ「…あのね、大野さん」
大「悪いことは言わねぇから、早まんなって！なぁ？」
ニ「…俺ね、こう見えても母親のこと大事にしてんだよね」
大「えっ…」
ニ「今まで苦労ばっか掛けて、親孝行なんて全然出来なかったからさ…今のうちに親孝行したいんだよ」
親孝行…
俺から言わせれば、お前は十分親孝行してると思うよ。
だけど…
母親を大事に思う気持ちは…俺も一緒だ。
現に、自分だって早く結婚して孫の顔を見せてやりてぇなって、何度思ったことか。
だからこそ…これ以上にのを責められない。
俺はリーダーとして、どうしてやるべきなんだ…？
辛そうな表情。
俺の前でだけ見せた本当の顔。
目を瞑ってしばらく考えた後、俺はソファの前に立ち、にのの頭をそっと引き寄せた。
大「バカ…」
自分の胸に顔を埋める頭を、優しく抱きしめてやることしか出来なかった。
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作者名：さくら 樹里
| 作成日時：2018年9月10日 12時
