ワン・モア・チャンス〔15〕 ページ50
目を開けたら。
俺はソファの上で横になっていた。
外は止んだはずの雨が、土砂降りになっている。
ドカンッとおもいきり雷鳴も響いた。
体を起こして自分の手の中を見たら、ペアリングも携帯も持っていなかった。
夢だったのか・・・？
だけど、部屋には俺しかいない。
再び悲しい現実に胸が押し潰されそうになっていると、玄関の方からカチャッと静かな音が聞こえた。
その音にバクバクとする心臓を抑えながら、リビングのドアを眺めていると。
やがてゆっくりと開いた。
その扉の向こうから入ってきたのは。
翔くんだった。
翔くんはあの時と同じ服装で、気まずそうな顔をしながら入ってきた。
俺は思わず立ち上がって、今にも崩れそうな膝でカクカクと翔くんの方へ近づいていった。
潤「・・しょお・・くん・・・」
翔「…ただいま」
潤「・・なっ・・なんでっ・・・」
翔「…なんでって…遅くならないっつったじゃん」
潤「でっ、でも・・・」
翔「…なんだよ。まだ怒ってんの…？」
潤「そっ、そうじゃなくてっ！！」
翔「…なに？」
潤「翔くんがっ…生きてるっ…」
翔「はあ？」
潤「翔くんがっ…死んでないっ…！」
翔「はぁ〜？当たり前だろ。勝手に人を殺さないでくれる？」
潤「…うぅっ…夢だったんだっ…」
翔「お前さぁ、あんだけ勝手に怒って人を追い出しといて寝てたのかよ…」
潤「うぅっ…ゴメンッ…」
翔「はぁ…潤」
潤「…はいっっ…」
翔「さっきは何も言わなくてゴメン…。あんさ…コレ…」
そう言って翔くんは、後ろに隠していた黒い紙袋を俺に差し出した。
見覚えのある高級そうな紙袋。
翔「口下手な俺からの…メッセージ」
照れくさそうな顔をする翔くんから、ためらいがちに俺はその袋を受け取った。
中を恐る恐る覗いてみると、薄紫色のリボンがついた小さな白い箱が入っていた。
ソレを震える手で取り出し、そっと中を開けた。
お揃いのシルバー色のリングが二つ。
見覚えのあるメッセージと、赤と薄紫の石が埋め込まれたリング。
照れくさそうにこめかみを掻く彼。
その姿がいかにも翔くんらしくて…
ボロボロと溢れ出す涙を、俺は拭わなかった。
あれは本当に夢だったのか。
…ううん。いいんだ、もう…。
だって…
翔くんが帰ってきたんだから…。
神様がもう一度与えてくれたチャンスを、俺は絶対に無駄にしない。
−終−
終わり
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作者名：さくら 樹里
| 作成日時：2023年1月25日 20時
