ARS's ｼｮｰﾄｽﾄｰﾘｰｽﾞ2017 (ページ45)

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ワン・モア・チャンス〔10〕ページ45

翔くんの顔を見ることは出来なかった。

いざ目の前にしたら、怖くて顔を見ることが出来なかった。

だけど…

遺体の所持品と汚れた服装を見ただけで、それが翔くんなんだってすぐに分かった。

何よりも、左腕に着いているレンズにヒビの入った腕時計。

ソレは俺がプレゼントしたものだから決定的な証拠だった。

本当に翔くんは・・・

実物を目の前にして受け止めるしかない事実。

それを受け止めても、いまだに何の感情も込み上げてこない。

そんな俺に渡されたのは、欠けたように傷が付いた翔くんの携帯電話。

電池パックのフタが外れた状態になっていて、そのフタの内側にはプリクラが貼られていた。

プリクラ・・・

たった一度、翔くんと一緒に撮ったプリクラ。

俺がどうしても撮りたくて、恥ずかしいから嫌だと言う翔くんを強引に連れ込んで撮ったんだ。

そのくせ翔くんは、少し照れながらも控えめな笑顔で撮ってくれた。

そのプリクラ。

翔くんはとっくに捨てたと思っていた。

だから俺は、翔くんの浮気を疑い始めた日にプリクラを捨てたんだ。

こんなモン、もういらないって…

ココに一枚だけ残されているプリクラを見つめていたら、なんだか複雑な気持ちに襲われた。

そんな俺に、更に荷物が渡された。

雨に濡れて少し泥のついた高級そうな黒い紙袋。

あまり大きくない手頃な大きさの荷物。

その場で中を確認する気にならなくて、傷の付いた携帯電話と一緒に家に持ち帰ることにした。

力の抜けたような状態の上品なデザインの黒い紙袋をぶら提げながら、俺は傘を差してひとりぼっちで帰ったんだ。