ワン・モア・チャンス〔6〕 ページ41
カラダを繋げるようになってから、翔くんは少しだけ口数が増えた。
とは言っても、相変わらずテンションは一定だし、物静かなのに変わりはないけど(笑)
でも、俺らが交わす会話は確実に増えていた。
だけど『好き』て言葉は聞いたことがなかった。
俺は翔くんから、好きだと言われたことは一度もなかった。
それでも良かった。
あの頃は、翔くんの俺への愛情を信じていたから。
言葉なんかなくたって、俺を愛してくれてるんだって信じてたんだよ…。
あの頃はな…
同棲するようになって、付き合ってもうすぐ1年経つ現在はもう、そんな気持ちはなくなった。
翔くんが俺のことを好きだなんて思えなくなってしまった。
理由は分からない。
喧嘩をした覚えはない。
翔くんを怒らせた覚えもない。
「好きじゃなくなった」と言われたわけでもない。
ものすごく態度が冷たくなったわけでもない。
俺はもちろん今でも翔くんのことが好きだ。
だけど…
なんとなく翔くんからの愛情を感じられなくなってしまった。
いや…
翔くんのことを信じることができなくなったのかもしれない。
好きだと言ってくれないことが、結局俺の中で不安を作ってしまい、その不安が次第に『恐怖』へと変わった。
もしかしたら自分からの一方通行なんじゃないかと思い始めたら、素直に好きだと伝えられなくなった。
前のように自分から寄り添うことができなくなった。
そんな俺の行動から俺の微妙な気持ちの変化に気付いたのか、翔くんは俺から少し距離を取るようになったように感じる。
だから俺も少しずつ距離を取るようにした。
当然、会話も減っていった。
見事なまでにすれ違い、俺らの距離はどんどん遠ざかっていった。
そんな状態に陥って最後は
俺の中の『恐怖』が『疑心』へと変わったんだ・・・
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作者名：さくら 樹里
| 作成日時：2023年1月25日 20時
