揺れる乙女心�� ページ10
「二宮」
俺の好きな低音が聞こえて、薄っすらと目を開けた。
ぼやける視界に映ったのは、俺の顔を覗き込む櫻井先生。
声とシルエットだけで分かった。
ようやく視界も意識もクリアになって、無駄にキョロキョロと周りを見回した。
いつの間にか完全に眠っていたらしい。
気付いたら5時間目の授業が終了した後の休み時間になっていた。
櫻「どう？少しは落ち着いた？」
ニ「あー…さっきよりは痛みが引きました」
櫻「良かった」
さっきのトイレでの行為をまた思い出して、胸がドクンと疼く。
櫻「二宮。そんな状態じゃ家に帰るのも大変だろうから、今日は先生が車で送るよ」
ニ「えっ…いいんですか？」
櫻「もちろん。ただ、まだちょっとやらなきゃいけないことがあるからもうちょっとだけ待っててくれるかな？」
ニ「ああ、いえ、全然、大丈夫です！」
先生が車で送ってくれるだなんて！
松「じゃあ、俺も一緒に乗ってく」
潤くんが、俺と先生の間に割って入ってきた。
櫻「キミは教室に戻ろうね」
松「なんでだよ！」
櫻「なんでって。5時間目の授業サボらせてやったんだから、6時間目はちゃんと出なさい」
松「だって、ニノが心配なんだよ！」
潤くん…
櫻「気持ちは分かるけどね。だけど彼のことは、俺がちゃんと責任持って家まで送り届けるから、松本は教室に戻れ。な？」
言って聞かせるように静かな口調で言う先生に、潤くんは不満気な表情を浮かべながらも、それ以上は反抗しなかった。
そのうち潤くんが、チラリと俺の方を見下ろした。
松「ニノ…悪いけど、俺は教室戻るよ」
ニ「うん…ずっと付き添っててくれてありがとね…。迷惑かけちゃってゴメンね…」
松「…別にこれくらい迷惑なんかじゃねぇよ。何かあったらいつでも連絡しろよ？」
ニ「うん…ありがとう」
潤くんとの別れが無性に名残惜しくなって布団から手を伸ばすと、潤くんがキュッと握ってくれた。
この瞬間、なんとも言えない気持ちになった。
松「じゃあ先生…ニノのことよろしくお願いします」
櫻「オッケ、任せて」
松「じゃあな…」
そっと離れていった手。
妙に寂しい気持ちになって、泣きそうになった。
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作者名：さくら 樹里
| 作成日時：2020年5月3日 21時
