ガラスの靴のないシンデレラ ページ49
遠い意識でフラフラと歩いて帰ってくると。
家の前で誰かが立っているのが見えた。
俺の姿に気付いたその影がこっちへ向かって来る。
智「おかえり、かず。遅かったね」
ニ「…ただいま。もしかして心配で待ってたの？」
智「んや、コンビニでも行こうかと思って」
その割に格好は完全なる部屋着だし、どう見てもお財布を持っていない。
兄貴…
智「あれ？てか、その服…あれっ！？」
驚く兄貴の顔がジワリと霞んで、俺は何も言わずに兄貴にキュッと抱きついた。
智「かず…」
ニ「解けちゃったよっ…あにきっ…」
智「………」
ニ「魔法が解けちゃうならっ…潤くんと結ばれなきゃ良かったよっっ…」
兄貴の胸でわんわん泣いた。
そんな俺を、兄貴は何も言わずに抱きしめて、背中をさすってくれた。
俺は所詮シンデレラにはなれないんだ。
だって、ガラスの靴が無ければ、王子様は迎えに来てはくれないのだから…。
兄貴と一緒に家に入ってシャワーを浴びて、部屋でひとりで過ごした。
ニ「…ねぇ、妖精さん」
静かな部屋で呼びかけたら
あ「………はい」
スッと、泣きそうな顔で姿を現した。
ニ「…一つだけ俺のお願い聞いてくれる？」
あ「いいよ！なんでも聞く！」
ニ「あのね…俺が女の子になってた記憶を全部消して欲しいんだ。俺以外の人、全員の」
あ「えっ」
ニ「…俺の記憶は残したままでいいから。その代わり俺以外の人、全員の記憶を消して。櫻井先生のも、兄貴のも…潤くんのも」
あ「ダメだよにのちゃん、そんなことしたらっ…！」
ニ「いいんだってば！俺に申し訳ないって思ってんなら、最後くらい俺の願い叶えろよッ！」
あ「でもっ…」
ニ「…楽しかったよ。ほんのひと時でも良い夢見れたよ。ありがとう」
あ「にのちゃんっ…」
ニ「…あんたともこれでお別れだね。言いたいことはいっぱいあるけど、しょうがないから胸の内にしまっといてやるよ。だから…俺のお願い聞いてよ」
真っ直ぐに見つめた。
魔法のステッキを持つ彼の手に、グッと力が入るのが分かった。
これでいいんだ。
余計な感情は無くなった方がいい。
だって、誰も傷付いてほしくないから。
あ「……シャラシャラポンっ…」
クルリとステッキが回った。
潤くん…
あなたに愛されて幸せでした…
さようならっ……
スゥーと緑の妖精は消えた。
部屋の時計は、ちょうど0時を指していた。
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作者名：さくら 樹里
| 作成日時：2020年5月3日 21時
