台風の夜に�� ページ35
相変わらず外は騒がしい。
だけど、この場は恐ろしいほど静かだ。
ゴクンと唾を飲み込む音さえ聞こえてしまいそう。
智「本気で人を好きんなったの…かずが初めてだよ」
ニ「え…」
俺を真っ直ぐに見下ろす綺麗な目。
心のどこかで思っていた。
もしかしたら兄貴は、俺を一人の『女の子』として見ているんじゃないかって。
そんなわけない、て…。
でも、そうだったらいいのに、て…。
智「何があっても責任取る」
本当は俺も…
智「かずがもし男に戻ったら、そん時はかずの好きにしていい」
本当は俺も、兄貴を一人の男として…
智「このままずっと女のままなら、俺が一生守ってやる」
一人の男として、意識していたのかもしれない…。
智「大事にするよ。かずのこと」
兄貴の手が俺の頬に降りてきた。
智「かず。俺の嫁になってよ」
少し顔を近づける兄貴の眼差しが、優しいのにどこか切なげで…。
その目を見ていると、ドクンドクンと心臓が音を立てる。
ふわふわと引き寄せられてしまいそうな感覚。
甘えてしまいそう。
あなたの優しさに。
兄貴である貴方に、自分の身を委ねたくなる。
どうしよう…
俺はどうしたらいいの…？
自分の気持ちが分からなくて、キュッと唇を結んだ。
智「…ごめん。そんな顔しないで」
今にも泣いてしまいそうで、更に唇に力を入れた。
智「…無理にとは言わないよ。かずが嫌なら諦める。だから泣かないで」
いつの間にか涙がこぼれてしまっていた。
困らせているのは俺なのに、優しい口調で言う兄貴。
どうしてそんなに優しいんだよ…
そんなに優しくされたら、俺…
智「かず」
俺を抱き起こそうとする手を止めた。
ニ「…俺…兄貴のこと好きだよ…」
智「………」
ニ「…でも…その気持ちが恋愛感情なのかどうか分からないっ…」
声が震える。
ニ「…もしかしたらっ…俺はあなたを傷付けちゃうかもしれないっ…」
目の端から涙が伝う。
智「かず。大丈夫だから」
再びこぼれそうな滴を兄貴が指で拭った。
俺は静かに智を見上げた。
智「俺の嫁になって、かず。もし、その気があるなら…目瞑って」
ガタンと雨戸が音を立てる。
ヒューとおばけみたいな風の音がする。
ザーと滝のような雨音が聞こえる。
それなのに部屋は静まり返っている。
そんな矛盾した静寂の中。
俺はそっと瞳を閉じた。
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作者名：さくら 樹里
| 作成日時：2020年5月3日 21時
