台風の夜に�� ページ33
いつの間にかドラマのストーリーがだいぶ進んでいて、主人公の女とさっきの男の結婚式のシーンになっていた。
演技とはいえ、主人公の女を演じる女優さんの顔が本当に幸せそうで。
ああ、いいな…なんて思ってしまった。
そんな乙女心が炸裂したせいか、妙に甘えたい気持ちになって、隣にいる兄貴の肩にズンと寄りかかった。
ニ「はぁ〜あ…」
智「眠たいの？」
ニ「ううん…急に寄りかかりたくなっただけ」
智「なんじゃそりゃ(笑)」
ニ「んねぇ…兄貴ぃ……」
智「んん？」
ニ「もしさぁ…このまま男に戻れなかったらさぁ…」
俺の声が小さいのかテレビの音がうるさいのか、兄貴がテーブルの上のリモコンを手に取った。
ニ「本当に兄貴の嫁にしてくれる…？」
兄貴の手から、ストンとリモコンが落ちた。
智「……え？」
ニ「だってさ…前に兄貴言ったじゃん…」
智「………」
ニ「『嫁に貰ってやるから安心しろ』てさ…」
智「…かず」
肩に寄りかかったまま、兄貴の着ているTシャツをキュッと掴んだ。
ニ「…俺が兄貴の嫁になったらさぁ…」
智「………」
ニ「俺のこと大事にしてくれる…？」
ドラマの場面が、ピタリと音が止んで静かになった。
肩から顔を離したら、兄貴と目が合った。
無表情とはまた違った感情の読み取れない表情で俺を見つめる。
雨戸を殴るような雨風の音が響く。
外はうるさいのに、この場はシンとしている。
俺と兄貴だけが静寂に包まれている。
何も言わない兄貴。
さすがにこの雰囲気に耐えられなくなった。
ニ「なーんて…」
変な空気を払いたくて茶化そうとした時。
突然、バチッと部屋が真っ暗になった。
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作者名：さくら 樹里
| 作成日時：2020年5月3日 21時
