兄貴の恋人事情�� ページ17
智「今、こいつと付き合ってる」
まさかの返答に、思わず凝視した。
そんな俺の様子はお構いなしに、兄貴がグイッと俺の肩を片手で抱き寄せた。
男らしい感じで抱き寄せられ、口をパクパクとさせながら俺は内心ドキドキと心臓の音を立てていた。
な…なにこれ…
どうしていいのか分からなくて、兄貴に肩を抱かれたままチラリと視線を上げると、彼女が少し切なげな表情を浮かべていた。
女「…そっか。可愛いカノジョが出来て良かったね！」
フっとさっきのような明るい表情に戻る彼女。
だけど、俺には彼女の本当の表情が見えていた。
彼女と別れた後、再びお弁当の袋をさげた兄貴と二人で黙々と歩いた。
さっき、俺のことを『カノジョ』だと公言した兄貴。
本当は、「なんであんなこと言ったんだよ」て問い詰めたいんだけど…
何故だか聞けない。
もしも、さっきの彼女の、遠回しのアピールから逃げる為に俺を利用しただけなのだと言われたら。
また胸がズキンとしそうな気がして…
ニ「…ねぇ」
智「ん？」
ニ「…兄貴ってさぁ、ああいう子がタイプなんだ」
敢えて兄貴の顔は見ずに言った。
智「んー別に」
ニ「別にって…付き合ってたんでしょ」
智「んでも、タイプとかそういうのは無かった」
ニ「…じゃあ、なんで付き合ってたの？」
智「ん〜体の相性が悪くなかったから？」
ニ「へ！？」
ザッと歩く足が止まった。
驚きのあまり立ち止まる俺に合わせて、兄貴も足を止めた。
智「そんな顔すんなよ(笑)」
ニ「だ、だ、だって」
智「飲み会で酔った勢いで寝ちゃうとか、大学生じゃ有りがちだよ」
ニ「ええッ！」
智「だいたいは勢いで一回寝てそれきりだったりするけど、あの人とは体の相性悪くなかったし、付き合ってほしいて言われたから、いっか、て」
さも普通のことのように言う、この男。
だけど、そんな世界はまだ知らないチェリーボーイな俺にとっては目眩がするような話だった。
兄貴が経験豊富なのは知っていたけど、実際に生々しい話を聞くと複雑な気持ちになる。
智「んでも、1週間で別れたけど(笑)」
ニ「…へぇ。随分と軽い男だね」
呆れるような、でもホッとしたような…。
とにかく胸の辺りがモヤモヤとして、これ以上は聞きたくない。
智「かずは」
ニ「うるさい。童貞でスイマセンね」
智「んふっ、良かった」
嬉しそうに笑う兄貴を睨んで、プイと拗ねて歩き出した。
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作者名：さくら 樹里
| 作成日時：2020年5月3日 21時
