後輩の家族が誕生した日�� ページ15
部長の座っているデスクへと向かいながら、自分も大きく息を吸って深く吐いた。
部長は本当に頭が固い人間だ。
それに、相葉は上司にあまり強く言えるタイプではない。
だからこそ、先輩である俺がいってやらないと。
無駄にスーツの襟をビシッと整えて、ようやく部長のデスクの前に立った。
翔「部長。ちょっと今、お時間宜しいでしょうか」
部「なんだ」
翔「えー…相葉の奥さんの出産予定日が来週だというのは部長もご存知かと思いますが、実は先程、奥さんの方から陣痛が来たと相葉に連絡があったそうで」
部「ほう。それで？」
翔「ですから部長。相葉を早退させていただけないでしょうか」
手に持つ書類を見ている部長が、チラッと俺の方を見た。
部「何を言ってるんだ。相葉は午後からプレゼンがあるだろう」
翔「ですから、プレゼンの方は僕が相葉の代わりにやりますので、どうか相葉を早退させてあげてください。お願いします」
部長に向かって深く頭を下げた。
部「ダメだ」
部長からのまさかの返事にゆっくりと顔を上げた。
部「お前はこれから私と、例のジャニーズセントラル物産に商談に行くから、この書類に目を通して準備をしとけ」
部長が手に持っている書類をバッと目の前に差し出された。
翔「は…」
反射的に書類を受け取ったものの、そう簡単に引き下がるわけにはいかなかった。
翔「部長…これは僕でないとダメでしょうか」
部「当たり前だ。ウチの部署で英語を話せるのは、お前しかいないんだから」
翔「…しかし、ジャニーズセントラル物産でしたら、部長の英語力で十分通用するかと」
部「つべこべ言わずに準備をしろ」
部長がバンッとデスクを叩いた。
イライラとしながらも、その怒りを部長に見えないように拳を握って堪えた。
翔「部長。でしたら、プレゼンは僕ではない他の誰かに代わっていただくというのはダメでしょうか」
部「相葉の担当してる仕事なんだから、相葉がプレゼンをするのが当然だろ」
翔「部長のおっしゃっていることは、ごもっともです。ですが、部長。相葉にとって今、大事な時なんです！」
段々と自分の口調が感情的になり始めた。
翔「お願いします！どうか、相葉を奥さんのところへ行かせてあげてください！」
もう一度深く頭を下げた。
きっと色んな人の視線がこちらへ向いているだろうというのが、部屋の静けさで伝わってきた。
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作者名：さくら 樹里
| 作成日時：2019年2月5日 16時
