58 ページ12
side:D
廉は予言者やった。
"本物見たらつい帰れなくなる"
それは思いの外強く、強く出てしまう。
細い小道を抜けて、少し崩れた岩道を降ると海辺にこっそり出ることが出来た。
暫く足を海につけたりして遊んだ。
遊び尽くした。
やけど、帰ろっかの一言を言えなくて、
『ぅわー、なんか夕日ちゃんと見るの初めてかも』
日が暮れていく。
夕焼けに染まっていく。
真夏、日が落ちていくその時間はもう明るくても夜やった。
『大ちゃん、そろそろ、』
そろそろ帰ろう、
流石に帰りの電車を心配してかおおにっちゃんが口を開いた。
その言葉を聞きたくなくて、唇を重ねる。
ああ、これもこの感じも久しぶりや。
「帰り...、たくない」
帰ったらまた転校の話をしなくちゃいけない。
行きたい学校なんていくら見たって出てくるわけもないのに。
『...、』
くりくりな大きな目が真っ直ぐに俺だけ映していた。
もうこれ以上の本心も言葉もなくておおにっちゃんの言葉を静かに待った。
すると彼はポケットから携帯を取り出して何か操作した後、その画面をこちらに向ける。
そこには"電源OFF"の表示、それから悪戯っぽく笑うおおにっちゃん。
『そうしよっか』
「え、」
『誕生日プレゼント』
「？」
『大ちゃんの誕生日は受験でお祝い出来んかったから』
これが正解じゃないことは、俺もおおにっちゃんもわかってた。
俺は、廉に"ごめん"とたった一言をメールを送っておおにっちゃんと同じように電源を切った。
一晩だけ一緒におれたら、明日の朝には始発でちゃんと帰ろうと、そう...思ってた。
きっとおおにっちゃんもそう思っていた。
『見てー、おばちゃんおまけしてくれてん』
少し歩いたところにあるお土産屋さんでおむすびと唐揚げを買いに行ったはずのおおにっちゃんはおまけにジュースを2本手に入れて帰ってきた。
それを夜ご飯に頬張って、夜が通り過ぎていくのが勿体なくて、普段なら絶対しないのに2人で寝転がって星を数えた。
会話も何もかもがなんでもよかった。
隣にいてくれたらよかった。
それだけやった。
朝起きると隣ですやすやとおおにっちゃんが寝息をたてていた。
ああ、ほら、もう朝が来てしまった。
どれだけ時間を後にあとにしても一瞬で終わってしまう。
どれだけあっても足りない。
これが最後やと思うとーーー、
『大ちゃん...？泣いてるん...？』
知らない間に流れた涙は大好きな手に拭われた。
＊
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 259人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ジャニーズ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ゆあ(プロフ) - 最近大西畑が好きになり、検索で見つけたちゆさんのお話に惹き込まれ、一気読みさせて頂きました。涙が自然と零れるほどに苦しくて素敵なお話でした。見てみると3年も前のお話で、続きがとても気になります。いつか更新されることを楽しみに待ちたいと思います。 (2022年7月25日 2時) (
レス) @page17 id: ae87ac6459 (このIDを非表示/違反報告)
イチゴ - すみません、丈橋ではなくて大西畑でした…すみません… (2020年5月2日 11時) (レス) id: f409fbedb4 (このIDを非表示/違反報告)
イチゴ - とても面白いです！丈橋の気持ちがよく描写されていて、とても憧れます！続きがとても気になります！ (2020年4月30日 16時) (レス) id: f409fbedb4 (このIDを非表示/違反報告)
ちゆ(プロフ) - みそらさん» コメントありがとうございます！一気読みして頂けたなんて嬉しい限りです！そろそろ終盤なので最後まで読んで頂けると嬉しいです(*¨*) (2019年3月24日 20時) (レス) id: 3ed9297e89 (このIDを非表示/違反報告)
みそら(プロフ) - 読み始めてすぐに惹き込まれてしまい、一気に読んでしまいました...！切なくて苦しくて愛しくて、続きがとても楽しみです。 (2019年3月23日 22時) (レス) id: 603a3a72ec (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ちゆ | 作成日時：2019年1月27日 15時
