11 ページ33
・
「…これ、受け取ってくれないかな」
「何？いきなり」
彼女が笑いながら箱を受け取る。
そうして少し箱を開けて…動きが止まった。
「…ガトーショコラ。僕たちの思い出の味でしょう？」
和田さんがそう言った瞬間、彼女は目を見開いて真っ直ぐに和田さんを見た。
「え…だって、忘れて…」
その大きな目の淵、イルミネーションの灯りが反射して、一瞬きらりと光る。
「…あの時はごめん。忘れてて、ごめん。君はこんなに、大切にしていてくれた思い出だったのに」
和田さんが眉を下げてふふ、と自嘲気味に笑う。
「……もう。本当だよ。ひどいよ」
「ごめん。ちゃんと思い出したよ」
「だってあの時から、私はずっと……」
「あ、待って」
和田さんが、慌てたように彼女の言葉を遮る。
そうして、すうう、と大きく息を吸い込んだ。
☆
「そっかあ！良かったじゃん和田っち〜」
私の報告を聞いて、良亮が何故か自分のことのように喜んでいる。
盗み聞きしてしまった情報を、こんな風に言ってしまうのは罪悪感がすごかったけれど、みんな和田さんの恋の行く末を心配していたようなのだ。
「で、でも、和田さん本人が報告に来たら、ちゃんと知らない振りしてよね…」
「何で？」
「そりゃそうでしょう支配人！だって尾行して、盗み聞きしたんですよ！場合によっては訴えられます！」
「偶然聞いた話なんだから良くないか？」
「偶然だなんてそんな嘘を！！」
「だって俺とAはデートしてて、そこで偶然和田さんたちを見かけたんだから。嘘なんかついてないでしょ」
しれっとそんな風に言う支配人に、思わずあんぐりと口を開けてしまう。
「え！？五関くんとAちゃん、ふたりだったの！？デート！？なんで！？」
「そうだよはっしー！俺をひとりワゴンに残してさ！仲良く夜の街に消えてったんだから！！」
「塚ちゃんその話詳しく」
「俺らお留守番組はそんな話聞いてないからね」
塚ちゃんの語弊ありまくりの発言に、郁人ととっつーがじろりと私を見る。
っていうか、何故私を見るんだ。私はどちらかと言えば被害者なのに！
「ずるいぞA」
「何で！？そっち！？」
「そりゃそうだろ！五関俺とはごはん行ってくんないのに！」
「五関くんが…女性とデート…」
「もう！支配人！何とかしてください！！」
私の叫びも虚しく、支配人はいつもみたいにけらけらと笑って、
「今日も平和でいいね」
なんて、優雅にミルクティーをすすった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 48人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ろっか(プロフ) - お話めいっぱい書きすぎてあとがき入れられませんでした！！この計画性の無さ！！なのでコメ欄で失礼します。お読み頂きありがとうございました！あとがきはTwitterにでも載せます(笑)…ろっか (2019年12月27日 0時) (
レス) id: 2af5960142 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ろっか | 作成日時：2019年11月3日 16時
