４ ページ30
・
「九条さん、ちょっといいですか」
翌朝、出勤するとすぐに、砂本さんが爽やかに話しかけてきた。
「なんですか？」
「今度の研修会の資料、ちょっと去年までの資料探すの手伝って欲しくて」
「あぁ、良いですよ」
「ありがとうございます。部長に急に頼まれちゃって」
そう言って砂本さんは、困ったようにあはは、と笑った。
資料室は、年代ごとにずらりとファイルが並んでいて、ここから目的のものを探すのは結構大変だ。
それでも、探している研修会は去年私が担当していたもので、なんとなく、どこに片付けたかも覚えている。だから砂本さんも、私に頼んだんだろうけど。
「んんと、確かこのあたり…」
「九条さん」
私が心当たりのある場所を指でなぞりながら探していると、後ろの棚を見ていた九条さんが私を呼んだ。
…なんだか、いつもの穏やかな声とは違う、冷たい声。
なんとなく、心がざわりと波立つのを感じたけれど、努めて明るく返事をする。
「はい？」
「どこまで分かったんですか？」
「…はい？」
「嫌だなあ、とぼけないでください。うちの幹部の、再編成の件ですよ」
その言葉にどきりとして、一瞬資料を探す手が止まる。
砂本さんが、私をじーっと見つめている気配がして、背中がぞわりとした。
「…まだ、あまり何も」
「そうなんですか？…こんなに僕の周りを嗅ぎまわっておいて？」
「……」
「僕、前に居たのシステム課ですよ？誰がパソコン調べようとしたかとか、すぐ分かります」
砂本さんが、ゆっくりゆっくり私との距離を詰めて、ぴったりと左隣に並んだ。
さっと緊張感が漂う。
「…データを書き換えたのは、砂本さんですか」
「……はい。と、言ったら？」
「…部長に報告します」
「九条さんも大変ですね、あんな部長に振り回されて、良いように使われちゃって」
「なっ」
「九条さん。取引しませんか」
砂本さんが、耳元でくすりと笑った。
何かを含んだ笑い方に、嫌悪感が湧きあがってくる。
「この件、うやむやにして処理してくださったら、和田常務も良くしてくださいますよ」
「……」
「あんな部長の下で働かなくても良くなりますよ。アシスタントって、いつも良いように使われてるだけじゃないですか」
「…部長はそんな人じゃ」
あまりに失礼な物言いに、言い返しかけた時、資料室の扉ががちゃりと開く音がした。
「ふうん、砂本くん、そんな風に思ってたんだ」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 53人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
奏風(プロフ) - 初めまして。素敵な作品だったのですね。五関君の作品はあまりないので、見つけて嬉しかったです。お話もとっても素敵で、最後まで一気に読んでしまいました。 (2022年8月3日 12時) (
レス) @page5 id: 0c5b809cd3 (このIDを非表示/違反報告)
みき(プロフ) - 五関くんに引き続き、橋本くんと戸塚くんのストーリーも気になります。早く読んでみたいです。これからも、A.B.C-Zのストーリーを期待しています。 (2019年11月30日 0時) (レス) id: 5ca5d758c8 (このIDを非表示/違反報告)
ろっか(プロフ) - 妙子の娘さん» お久しぶりです〜！続けて読んでくださっていて嬉しい…！お待たせしてばかりですみません……もうちょっとさくさく書けるように努力します！笑 (2019年11月4日 0時) (レス) id: 2af5960142 (このIDを非表示/違反報告)
ろっか(プロフ) - ふーみんさん» ふーみんさん、ありがとうございます…！なんとお優しい……えびちゃんのお話、もっと増えて欲しいですよねぇ！キュンキュンして頂けるように、頑張ります！！ (2019年11月4日 0時) (レス) id: 2af5960142 (このIDを非表示/違反報告)
妙子の娘(プロフ) - お久しぶりです。今回も楽しく読ませて頂きました。早く続気が読みたいです。待ってまーす！ (2019年10月30日 22時) (レス) id: 3bfa5bcd50 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ろっか | 作成日時：2019年8月26日 0時
