あなたの背中

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日曜日。

母と駅で待ち合わせて目的のホテルへ向かう。


一応、綺麗な恰好じゃなきゃいけないかな、なんて考えて、淡いブルーグレーのワンピースを着てきた。

「あんたいっつもそんな色ばっかりよね」

と、私の恰好を上から下まで舐めるように見て、母が言う。

「こういうのが好きなの。いいでしょ別に」

「でもねぇ、若いんだからもうちょっと可愛らしい恰好したっていいんじゃないの？」

ほら、あんな感じの、と母が指さす先には、ピンクのリボンやレースがあしらわれたワンピースのマネキン。
別にピンクが嫌いな訳ではないし、むしろカワイイものは好き。
でも、なんとなく、いつも落ち着いた色のものを選んでしまう。

それに、部長の好みはカワイイ系じゃなくてキレイ系みたいだし。なんてね。
こういう所を気にしてしまうあたり、私は単純だ。


通り過ぎていくショーウインドウのマネキンにあれこれ言いながら歩くと、あっという間に目的地に着く。

「こんなところでランチなんて、贅沢ね」

そう言ってふふふ、と笑う母は、我が母ながら可愛らしい。
私もつられて、ちょっとわくわくしてくる。

「テーブルも高そうね」「コースだって、お料理」なんて、庶民丸出しの会話を繰り広げながらお料理が来るのを待つ。


いろんなお客さんがいるなぁ、なんてくるりと店内を見渡すと、ふと一点に視線が止まった。


…もしかして。

骨ばった、男らしい背中。
ちらりと見えた横顔は、すっきりしていて美しい。
ふわりと揺れる茶髪に、涼し気な目元。

いやあれは、紛れもなく。



「…ぶちょう？」


思わず漏れた声に、母が反応する。

「ん？なに、あなたの上司？」

「え、あ、うん…」

私の視線を追いかけて、母はあら、と口元を手で押さえた。

「きりっとしてて素敵な方なのねぇ。向かいは…奥様かしら？」



…奥様。

部長の向かいに座っている女性は、清楚な白いワンピースに身を包み、口にそっと手を当ててお上品に笑っていた。

…奥様、か。
そうだよね、そう見えるよね。
私にも、そう見えるよ。

だって、あんなに綺麗な人。綺麗な部長に、とってもお似合いだ。


もしかして、あれがうわさの。


「挨拶しなくていいの？」

と聞かれたけど、ゆるゆると首を横に振る。
あんなところにノコノコ出ていける程、馬鹿じゃない。

「…邪魔したら、悪いから」

そう言って、タイミング良くやってきたお料理を黙々と口に運んだけれど、なんだか味は良く分からなかった。

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