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「はい、どーぞ」
「どーも」
郁人がわざとらしく助手席のドアを開け、私をエスコートする。
その動作がなんだかスマートで、ちょっとだけむかついたことは胸にしまっておいた。
「はい、しゅっぱーつ」
「お願いしまーす」
ゆっくりと走り出した車は、すいすいと目的地に向かっていく。
ちらり、と横目で郁人の顔を見たら、真剣な顔でハンドルを握っていた。
…なんだ、かっこいいぞ。
郁人のくせに。
そのままなんとなく、無言で窓の外を見つめる。
車の振動が心地良くて、シートに深くもたれながら、流れる景色をぼんやりと目で追った。
「…寝たかったら寝てていいよ」
「え、やだ」
「即答かよ」
「だってなんか…もったいない気がするっていうか…」
言ってから、自分の言葉にふと疑問を抱く。
もったいないって何？
郁人の運転で寝るなんてもったいない。
郁人といる時間が短くなるみたいで、もったいない…
そこまで考えて、時差でぼぼぼ、と顔が熱くなってくる。
「ちが、いや、違わないんだけど…」
もにょもにょと口の中で言い訳を転がしていると、郁人は私をちらりと見てうきゃきゃと面白そうに笑った。
「なんかお前、今日、変」
「なっ、変じゃないし」
「いやぁ〜、こんな主任は会社じゃ滅多に見られないな」
「当たり前じゃない！見せるわけないでしょこんな姿！」
「……何？彼氏とのデートであたふたしてる姿？」
んくくっ、と含み笑いをしながらそう言う郁人は、なんだかすごく楽しそうだ。
どう言い返したらいいか分からなくなって、黙り込む。
……遊ばれているみたいで悔しい。
反撃したいのに、何も思いつかなくて結局黙り込んだままだった。
しばらくして、信号待ちで車が止まったタイミングで郁人が声を掛けてきた。
「…もしかして怒った？」
「…怒ってない。悔しいだけ」
「は？」
「なんか私だけ、緊張してるみたいでむかつく」
「…は？」
「以上」
「ぷっ」
郁人が思わず、といった感じで吹き出して、そのままんくくくく、と身体を震わせる。
「ガキじゃないんだから…くっ」
「笑いたきゃ笑いなよ……」
「あー、もー、俺の気も知らないで」
郁人が前を見ながら、左手で私の頭をぐしゃぐしゃと撫でる。
「今は気張ってるだけ。かわいい彼女乗せて事故れないでしょうが」
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び - 最高でした、なんでこの小説に早く出会わなかったんだろうと後悔しました。主人公の心の動きに大変共感できました。大好きです。 (2023年1月2日 20時) (
レス) @page18 id: e81db92c6d (このIDを非表示/違反報告)
未来(プロフ) - 何回読んでも最高です… (2022年3月29日 13時) (レス) @page18 id: b45d85880b (このIDを非表示/違反報告)
ゆりっぺ(プロフ) - 最初から何回も読み返してます。続きが気になります〜楽しみです！！ (2020年9月11日 21時) (レス) id: a836ecca10 (このIDを非表示/違反報告)
すー(プロフ) - ろっかさんの作品全部大好きです！更新楽しみにしてます！ (2020年7月24日 17時) (レス) id: a2ae454f2a (このIDを非表示/違反報告)
ろっか(プロフ) - ゆりっぺさん» お待ちくださりありがとうございます…！そのお言葉で頑張れます◎ (2020年7月4日 23時) (レス) id: 2af5960142 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ろっか | 作成日時：2020年6月28日 20時
