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「お婿さんはなんて名前なの？」
「んー…わかんない、忘れちゃった」
明日嫁ぐ北斗
もちろん嫁ぎ先は俺も知っているし、北斗だって忘れてなどいないはずだ
改めて北斗の口から聞いて自分ではないことを確かめようとしていたのに
北斗はそんな俺のずるい考えを見破っているのだろうか
「森本さん、でしょ。数回パーティーでお会いしたことがある。
…明るくて優しくて瞳が輝いていて。未来を真っ直ぐ見ている人だよ」
まるで、俺とは正反対だね
北斗と俺の声が被る
「「ふふ、」」
顔を見合わせて笑うと、いつもの数倍幸せになるのはどうしてだろう
「明るくなくて瞳は少し暗くて諦めていて諦めてなくていつでも寂しそうにしていた京本が、おれは
……好きだよ」
はっ、と顔を上げると北斗の瞳には既に薄い膜がはられている
「うん、その顔も好きだ」
「…ずるい、おれが言おうとしてたのにっ」
堪え切れずに流れた涙を拭う
温かくて、でも外気に当てられて少し冷たい、
いつもの北斗の頬の感触
「ここはね、桜の名所なの。好きだったでしょ？桜」
「Sakura…母様の名前だからね。ここで見た桜も思い出だよ」
北斗は明日、別の男の家へと嫁ぐ
俺は明日、英国へと旅立つ
「桜の下でだけなら、京本を想うことは許されるのかな」
「桜の下でしか見られない夢って素敵だと思わない？」
この桜の木の下で、北斗と出会った
この桜の木の下で、北斗に恋した
この桜の木の下で、北斗と別れる
「どうせなら今が春ならよかったのに」
「一月だからね。でもこんな雪まみれの桜も綺麗だよ」
「……幸せだったよ」
また降り始めた雪を見つめながら漏れた声
それは北斗が一度も言葉にしてこなかったもの
「さ、そろそろ中に入らなきゃね。明日嫁ぐ花嫁様に風邪なんて引かせられない」
北斗から漏れた“幸せ”を噛み締める
返せなくて、ごめんね
でも返したらきっと溢れてしまって、
この辺り一面を俺の想いで埋め尽くしてしまうだろうから
「涙ごと凍るかな」
「…凍れるならまた春に溶け出すよ」
流れた涙を見ないふりして笑う君は、
この世の誰よりも美しかったよ
桜の下でだけの俺と北斗の時間
それはもう、二度とないんだ
fin
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作者名：ぷりむら
| 作成日時：2021年3月10日 15時
