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「なぁ北斗」
「…ねぇ樹？」
俺が呼びかけた筈なのに、何故だかわざわざそれを遮って話出した北斗
俺の髪をかきあげ、長い前髪を避けて顔を掴む
「ずーっと好きだったよ」
ちゅ
そんな可愛いキス、要らないんだけど
そんなふうに何度か言ったことを思い出した
もっと甘いキスなんて何度もしてきた筈なのに、
もっと密着してきた筈なのに、
何故だか今日のこのキスがこれまでで1番甘くて優しく感じる
「これまで言ってあげなくてごめんね」
「本当だよ」
声を出した自分が涙声で、自分の視界が揺れていることに気付いた
「もう立派な大人だね」
「4月から就職だしな」
たったあれだけの短いキスしかしていないのに、もう触れてはいけない気がした
「…結婚式、いつ？」
聞いてはいけないと思っていた
聞かないようにしてきた
「…明後日」
北斗の目から滴が零れ落ちた
1滴、また1滴と止まることなく落ち続けている
「ほんとにさよなら、だね」
「楽しかったよなこの3年」
明後日政略結婚させられる北斗は、もう俺の手の届かない人になる
「樹がサボり魔だったおかげで会えたね」
「北斗だって仕事サボってただろ」
「あー、慎太郎とジェシーの怪我の手当てして樹に嫉妬されるのももうないのか、」
「勝手に慎太郎とジェシーと仲良くなってたからだろ、」
先に泣いていたのは俺だったのか、北斗だったのか
分からないけど目の前のこの愛しい塊を抱きしめる
「これで最後にするから、今は触るの許して」
「…俺も樹に抱きしめてほしい」
北斗の白いシャツが俺の涙で濡れてどんどん透けていく
俺のネクタイが北斗の涙で濡れてどんどん色を濃くしていく
先生と生徒、とか
男と男、とか
障害はいろいろあった筈だけど、
今思い返しても楽しい出来事だけで
放課後保健室で北斗の仕事が終わるまで時間を潰したり、
皆が体育している間に北斗をベッドに沈めたり、
図書室でジェシーと慎太郎も入れて隠れんぼしたり、
どれもこの古びた汚い校舎での出来事
俺たちの関係がここから出ることは決してなかった
「卒業、おめでとう」
「…おめでたくなんか、ねえよっ」
だから、今だけは
これまでは我慢してきたから、今だけは
本当の気持ちを言うことを許してください
「北斗、愛してる。離れたくない…っ」
fin
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作者名：ぷりむら
| 作成日時：2021年3月10日 15時
