空虚 “red” ページ16
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side black
時々、自分が空っぽだと思う時がある
時々、自分が何処にいるのかわからなくなる時がある
時々、自分が何故生きているのか疑問になる時がある
「ほーくと、」
何してんの、と問われても答えは何も用意していない
一体俺は何をしていたのだろう？
ただ、ベランダの柵に寄りかかり、前のめりに月を見上げていた
ただ、それだけ
「何もしてない」
「そっか。月、綺麗だね」
厚い雲に隠された月を見て綺麗と微笑むジェシーは、
きっとこの言葉の意味を知らないんだと思う
「月なんて見えないよ」
「でも北斗は月を見てたんでしょ」
「見えてると思ってて本当は何も見えてないの」
何言ってんだろ、
空っぽな自分を、厚い雲に覆われた月に重ねたりして
あんなに大きくて動かない存在でもないのに、
明るい太陽に照らされる存在でもないのに、
何処からか湧いてきた自己嫌悪はみるみるうちに俺を包んで
そのまま暗闇へと引き摺り込もうとする
「だめだよ、そっちは」
ぎゅっ、と抱きしめられた感覚に身体を震わせる
耳元に寄せられた顔から温かい息を感じた
「さ、もう冷えるから。中に入ろっか」
耳元で話されれば、簡単に言うことを聞く身体
まるで自分のものじゃないみたいだ
全ての感覚器官がジェシーの支配下にあるみたい
「北斗、好きだよ」
「なに突然」
「今言いたくなった」
カラカラ、と窓を開けて部屋に戻れば
そのまま腕を引かれてソファに座らされて
隣に座ったジェシーは俺の右手を繋いで、そう言った
「顔赤いよ、首も」
「北斗こそ耳赤いよ」
愛情表現を言葉でするのは互いに苦手で、
いつでも照れがついてきてしまうけれど
でもその赤くなった首と顔を見るたびに、
気まずそうに微笑むその顔を見るたびに、
照れて目を合わせないその姿に、
俺はいつも自分の存在意義を見つけている
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作者名：ぷりむら
| 作成日時：2021年3月10日 15時
