弐 ページ41
*
「杏寿郎、私……」
「どうやら、封印が解けたようだな。
体はどうだ?
大丈夫か?」
「うん、もう大丈夫」
「そうか……それは良かった。
でも、何故急に……」
「私が杏寿郎を好きだからかな?」
「……うむ?
そうか、俺もだ!」
杏寿郎はそう言ってニコリと笑うと、頭を優しく撫でてくれる。
私は『好き』しかこの気持ちを表す言葉を知らない事が、とてももどかしかった。
この胸のときめきを、ざわめきを
全部
全部、全部
どう言って伝えたら良かったんだろう?
そうしたら、こんな風に軽くあしらわれずに済んだのに。
私の額に濡れて張り付いた髪を、杏寿郎が指でそっと掻き上げる。
その指の熱さに胸が高鳴って、私は視線が彷徨ってしまう。
そっと杏寿郎の顔を見上げると、私と同じ様に髪が濡れて額に張り付いているのが見えた。
杏寿郎の髪から落ちる水滴が、月の光を閉じ込めて光り輝く。
それはキラキラと金色に煌めいて、まるで
昔の人が杏寿郎の事を『金の神様』と呼んだ理由がよく分かる。
陽の光をうつした様な金の髪、朱色を縁取る金環の瞳、金色の豊かな九つの尾……
頬を伝う水は首へと流れて肌を輝かせ、その色気に私はクラクラとしてしまう。
川は私達の周りをさらさらと流れ、その川面はキラキラと月の光を反射する。
揺らめく蛍火は、私達の周りを囲む様にして優しく点滅を繰り返した。
私は拳をギュッと握ると膝立ちをして、おずおずとその額に手を伸ばす。
杏寿郎がしてくれたのを真似して、指で額の髪を掻き上げると、川底で石にでもぶつけたのか額から血が出ているのが見えた。
「大丈夫?
ここ、怪我してる」
「む?
ああ、大丈夫だ」
「でも……」
今ならいつも杏寿郎がしてくれるみたいに、治癒の術を使えないのかな?
そっと傷に手をかざして『治れ、治れ』と念じてみるけど、変わりはない。
搔き上げた髪の向こうから杏寿郎の赤い瞳が、私の一挙一動をじっと見てつめていて指先が震える。
何かしなきゃ。
どうにかしなきゃ。
胸が締め付けられて、息が苦しい。
――そうだ、昨日杏寿郎は確かこうやって治してくれた。
私はきゅっと唇を噛むと、杏寿郎の額の傷にそっと唇を寄せた。
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華(プロフ) - 龝さん» あきちゃん、コメントありがとうです(*´ `)もう、夢主ちゃんにグイグイ押されてコン寿郎はタジタジです(*´艸`)真っ赤になる兄貴は可愛らしいですよね(*//艸//)いえいえそんな…!お恥ずかしい(汗)素敵なコメントありがとうね! (2021年6月24日 12時) (レス) id: e9517aa429 (このIDを非表示/違反報告)
龝(プロフ) - 華さん、第二部、お疲れ様でした!m(_ _)m垂れた前髪の隙間から見える兄貴の赤面には萌えますね…!(*´∇`*)第三部がとても楽しみです…!またまた情景描写に心打たれることでしょう…!更新、お疲れ様でした!m(_ _)m (2021年6月24日 10時) (レス) id: fa76bf1609 (このIDを非表示/違反報告)
華(プロフ) - 彩乃さん» ゆめこさん、コメントありがとうです(*´ `) 本当にあっという間ですね(汗)何故でしょう…?きっと兄貴は、自分に対して言い訳をして思い込もうとしてるんです。頭を垂れたのはどうしてでしょうか…?(*´艸`)いつも沢山ありがとう! (2021年6月23日 18時) (レス) id: e9517aa429 (このIDを非表示/違反報告)
華(プロフ) - 衣世さん» 衣世様、お久しぶりです(*´ `)今は全体で言うと、起承転結の転位のイメージですのでもうしばらくお付き合い下さいね(*´∀`*)子狐ちゃん頑張りました。衣世様にドキドキをお届け出来て嬉しいです(*´艸`)コメントありがとうございました! (2021年6月23日 18時) (レス) id: e9517aa429 (このIDを非表示/違反報告)
彩乃(プロフ) - 華さん、第二章お疲れさまでした!!なんだかあっという間に感じます……笑 狐ちゃんの想いが兄貴に届くといいですね!忘れられないのは仕方ないけれど、兄貴もヤキモチ妬くくらい好きなんでしょうから笑 吸血鬼も面白そうですね! (2021年6月23日 10時) (レス) id: 555a9d3211 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:華 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/personal.php?t=punishop
作成日時:2021年4月24日 10時