【妖狐】金の神様２【煉獄杏寿郎】

　肆　☆* ページ33

*


　Aの突然の『嫁に行く』発言に、千寿郎も驚きを隠せない。


「よっ、嫁に行く！？

　兄上、これは一体？」

　千寿郎は真っ青になりながら、俺の顔を見上げ袖を掴んだ。


「Aっ！

　きっ、君は、黒羽の事を、あんな事をされたのに好ましく思ったのか！？

　この俺を差し置いて、あんな奴の嫁になると、君はそう言うのか！？

　それなら！ それ位ならっ！」

「兄上？

　Aさん、何かされたんですか！？」



　冷静に話さねばと思った筈なのに、俺の口から出る言葉は冷静さを欠いている。

　思わず口から出た言葉に、俺はハッと口をつぐんだ。

『それ位なら』？

　そうだ、黒羽の嫁になる位なら……俺の嫁でも良かったのではないか？


　何で、俺じゃなくて黒羽なんだ！

　驚きを通り越して、次第に怒りがむくむくと湧き上がって来て気が付くと、俺達はAの肩をつかんで彼女に詰め寄っていた。

　

「どうしたの？

　好ましいも何も、杏寿郎のお友達なら仲良くしなきゃって思っただけだよ？」



　Aの言葉に思考が追いつかず、慌ててるのは俺だけか？と、顔色一つ変えずに話すAを見て、憎らしさすら感じてしまう。



「しかし！

　嫁に行くと言ったではないか！？」

「だって黒羽さん、ヨメって所に住んでるんでしょ？」

「――へっ？」

「ほら、『ヨメに来い』って言ってたじゃない」

「……！

　あぁ……そう言う事か……」



　――もしやこれは

『ヨメ』と言う場所に行く、と言う事か。


　やっとそう分かって、一気に全身から力が抜けた。

　そんな俺達を見てAは不思議そうに首をひねる。



「……私、何か変な事を言った？」

「A、嫁に行くとはな……

　黒羽の嫁になると言う事はだな……

　そうだな……

　家族に……そう、家族になると言う事だ！

　黒羽の嫁になったら、君はここを出て黒羽の家に住んで一緒に暮らさねばならんのだぞ！」

「えっ、やだ！」


　ウゲッと眉間にシワを寄せて嫌悪感丸出しのAの顔を見て、俺はやっと安堵の胸をなでおろした。

　良かった、ここを出て行きたいと言う事ではないらしい。


「だろう？

　遊びに行きたいのなら俺が連れて行ってやるが、嫁に行くのは許さん！

　分かったな！」

「うん！

　じゃあ私、杏寿郎と千寿郎のヨメになって良い？」

「むむっ！？」

「駄目？」


　また変な事を言い出したぞ。

　俺は眉尻を下げて天を仰ぎ、大きなため息をついた。

　伍→←　参

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