【妖狐】金の神様２【煉獄杏寿郎】

　肆 ページ12

*


　昼稽古が済んだら、お風呂に入って夕餉を食べて、そして狐に変化(へんげ)して千寿郎のお布団に潜り込む。


「Aさん、明日は頑張って下さいね」

「キュンッ！」

「兄上がついているから大丈夫だとは思いますが、怪我には気をつけて……」

「キュン？」


　何となく千寿郎が寂しそうに見えた。

　私は小首を傾げじっと千寿郎の顔を見て、それから頬をペロペロと舐めた。

　千寿郎が私をギュッと抱き締める。


「すみません、心配かけて。

　Aさんが、兄上を手伝って共に見回りをしたいと言ってくれた事、本当に嬉しいんです。

　ただ……夜はこうやって毎日Aさんが一緒に居てくれたから、明日からは一人なのが少し寂しいなと思っちゃって。

　お恥ずかしいですね。

　僕もしっかりしないと！」

「キュン……」


　確かに、この広い屋敷で一人留守番をするのは、寂しいに違いない。


『私、自分の事ばかり考えていたのかも……

　早く帰った日は、千寿郎の所に来るからね』


　私は千寿郎の胸に顔を擦り寄せる。

　千寿郎はそんな私の背を、何度も何度も優しく撫でてくれた。


　私達はそうやって身を寄せ合ったまま、その日は眠った。



◆



　ゴソリ

　朝、千寿郎が体を動かした気配で目が覚めた。

「おはよう、Aさん。

　さて、起きましょうか！」

「……キュン……」


　私は背中をぐっと反らして、朝の少しひんやりとした空気を吸い込む。

　そしてペロリと千寿郎の頬を舐めると、布団を抜け出して杏寿郎の部屋へと向かった。


　廊下を駆けて杏寿郎の部屋に着くと、鼻先で障子を開ける。

　中に入って布団の方へと歩み寄ると

「おはよう！」

と、杏寿郎はボサボサ頭で爽やかな笑顔を私に向けた。

　そしてそのまま杏寿郎は伸びをすると、ガバリと布団から起き上がり

「では、準備が出来たら庭においで」

と言って、私の頭をポンと撫でた。



　最近、杏寿郎のお布団で寝る事は滅多に無い。

　勿論、夜は杏寿郎が見回りで居ないと言う事もあるけれど、朝も杏寿郎がすぐ起きる様になっちゃったからだ。

　以前の様に朝起こしに行っても、それを見計らった様に起きてしまうから、お布団に潜り込むスキがなくて正直つまんない。


　……まぁ、確かに一緒のお布団に入るのは、最近居心地が悪く感じてきたから、丁度良いのだけど、一緒に寝ないなら寝ないでそれはまた寂しい様に感じちゃうのだから、なんとも複雑な気持ちだ。

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