煙に巻かれて【短編集】 (ページ43)

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( side 辻

ごそごそという音で起きた
他人に起こされるなんて久しぶりやな、
とぽやっと考えていたらAと目が合った

態度がどこか他人行儀で、寂しくなると同時に嫌な考えがよぎった
いや、まさか、一晩で終わりなんてことは…

「はよ入り」

すんなり隣に入り込んだAの姿に安心と幸せを感じた
顔にかかる前髪をそっと耳にかけると
急に自分のベットにAがいる実感が湧いて、また嬉しくなった

「どうしたん」

『いや、』

恥ずかしそうに顔を隠すAが可愛い
昨日は流石にお酒の勢いはなぁと何度も悩んだくせに、今日こうして顔を合わせて抱きしめることが出来てしまったら、結果的に良かった、と思ってしまう

自覚できるほど、ばくばく、心臓がなっているけど、離れたくなくて力を強めた
Aも、このくらいどきどきしているんやろうか

『あの、』

「ん？」

『私、帰ります』

「え、なんで？｣

申し訳なさそうに言い淀むAに不安を覚えた

『いや、そのなんも覚えてへんくて…ほんまにご迷惑をおかけしました』

「え、嘘やん！…どっから？」

『……全部です、3杯目飲んだあたりからスパンと記憶ないです』

「まじか…でも、俺と付き合ってるってことは大丈夫やんな？」

『へ！？』

Aが完全に分かっていない驚き方をした
やばい、やったかも、抱きしめてもうてるし

『つ、付き合ってるってどういう意味ですか、』

「いや、やって昨日好きってAが何回も言うてくれたから」

『何回も！？』

「そんなリアクションする笑？」

『いや、すみません…』

「あのさ、その、付き合いたいって意味で好きでいてくれてたんは、間違ってへんやんな…？」

Aの顔が見れない
ここで断られたら全てただの幻に変わってしまう
そんな時に限って昨日の好きと言ってくれたAの顔を思い出した

『…間違ってない、です。辻さんのことずっと好きでした』

「よ、かったぁ」

『ちょ、辻さん、近いです！』

「ほんまに終わったかと」

『すみません、私も良かったです』

「でもあれやな、なんも覚えてへんならやり直さなあかんな、色々」

『…い、いろいろ？』

わかりやすく顔を真っ赤にしたAが愛しくて思わずにやけてしまう

「まずは、俺Aのことずっと好きやった、から付き合ってほしい」

もう一度、きちんとステップを踏んでいこう
今度は忘れないで、時々思い出せるように、

…