煙に巻かれて【短編集】 (ページ42)

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行き違い tsuji.k ページ42

( side A

肌寒さと妙な居心地の悪さで目が覚めた
体感だがまだ起きるには早い気がして
寝返りを打ってもう一度目を閉じかけた

「え、えっ、、」

職業病なのか、無意識に大きめにリアクションを取ってしまって慌てて口を抑えた
でも、事態は深刻で、叫びたいほどに動揺した

辻さんが隣で寝ている

それはつまり、
朝起きたら隣で好きな人が寝ている、
ということなのだ

やばい、やばい
焦って昨日の記憶を辿ろうと脳をフル回転させようとするものの、さっきまで感じなかった頭痛が急にきた
はっとして、確認すると、服を着ていない
残っている腰の違和感

終わったな、完全にそう思った

飲み会で飲みすぎた所から記憶がすっぽり抜け落ちている
一体どうして私は辻さんの家に来てしまったのか、どうしてこんなことに、
なんて悠長なことは考えていられず、とりあえず服を手に取って着た

「…ん、起きたん？」

『ひぇっ、、』

「おはよ」

『お、はようございます』

「ん、起きるん？…まだやろ」

『え、いや、』

「はよ入り」

好きな人が自分ための場所をあけてくれて
眠い顔で手招きしてきて、断れる人間なんているんやろうか

今までで1番顔が近い
辻さんは起きて数秒の顔もかっこいい
そういえば私はメイク落としてない？
絶対ぐちゃぐちゃ、髪もそうだし

そう思うととたんに恥ずかしくて、とりあえず手で覆った

「どうしたん」

『いや、』

「まぁええよ、隠さんで済むからこっち来て」

あっという間に腕の中に収まった
鼓動がうるさい、この近さだと聞こえてしまいそうで空間をあけたいのに、回った腕にはしっかり力が込められている

いやいや、まって、思考を停止したい自分に喝を入れる、全然状況が掴めない
昨日、どうなったのか聞くべきか

もう恋人はおろか、いつもの先輩後輩の関係さえ戻ってこないかもしれない
そう考えるとこの温もりが、神様からの最後の情けのような気がして、泣き出しそうになった

『あの、』

「ん？」

『私、帰ります』

「え、なんで？」

『いや、そのなんも覚えてへんくて…ほんまにご迷惑をおかけしました』

「え、嘘やん！…どっから？」

『……ほぼ全部です、3杯目飲んだあたりからスパンと記憶ないです』

「まじか…でも、俺と付き合ってるってことは大丈夫やんな？」

『へ！？』

…