煙に巻かれて【短編集】 (ページ38)

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( side せめる

劇場の下で待っていた
出てきたAさんは、1度こっちをちらっと見たのに、何も無かったように歩き出した
少し傷ついたけど、直ぐに隣に駆け寄った

「Aさん、東京行かはるって聞きました」

『うん、行く。ごめん…その、秋吉に先に言えなくて』

「こないだの話覚えてますか？」

『……覚えてる』

「やったら、」

『全部忘れよう、秋吉は私の後輩の一人』

「…なんで、」

『もう辞めたい、ここで止まりたいんよ』

「……じゃあなんでそんなに、泣いてるんすか」

数滴伝うのではなく、Aさんの涙はとめどなく流れている
どんどん服の色が変わっていく
そんな切なそうな顔しないで

好き、だけじゃあかんのか
2人で、幸せになるのを望むのはあかんのか
ねぇ、もうずっと頑張ってきたんやから
俺だけには正直に言って欲しい、
そのまんまのAさんでいてほしい

「すんません…好き、好きなんです。どれだけ考えてもあかんのです。もう1回聞きたくてたまらないんです、同じ好きやって」

『…………あーもう、好き、私も』

「Aさん、」

『でも怖い、もし終わってしまったら、もう恋人でもなく、大切な後輩でもなくなっちゃうかもしれへん。それくらい認めるってことは、関係が変わってしまうってことなんよ』

「その前に、何度でも話しましょう？何度でも何度でも俺がAさんを捕まえに行きます。離さないから…恋人になりましょう」

『………ちゃんと、その約束守ってや？』

「もちろんです。大好きなAさんのためっすから」

これまでの時間が好きの一言で変わっても、
Aさんを愛し、俺も愛されたい
ずっと、そばにいますから

…