煙に巻かれて【短編集】 (ページ36)

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( side A

好き、と言われた
ずっと好きだった後輩に
なのに私の気持ちは沈んだまま

「東京、決まったらしいな」

『…リリー、それどこ情報？』

「もちろん、お前の相方から」

『まだ言いふらさんといてって言ったんやけどなぁ』

「まぁ同期まわりだけちゃう？」

『だったらええけど…』

東京、ずっと目標にしていた東京進出
大阪の居心地の良さに忘れかけていたけれど
芸歴はもうそこそこいっていて、私たちなりの売れ方を模索しなくてはならなかった
有難いことに東京の仕事が増えて、
今しかない、そう思って決めた
一世一代の決断、揺るぐはずはないと思っていた

「実質先越されたってことやんなぁ」

『見取り図もすぐ来るやろ』

「俺が東京行く時泊めてな」

『なんでや、絶対いやや』

「……はぁ、ほんで、Aはなんでそんな浮かない顔してるん」

『してへんよ、何が』

「いやわかりやすすぎるって、東京やって、Aの希望ちゃうん？」

『そうやよ、だからいろいろ準備してるし』

「なんか思い残すことあるんやろ」

『…ない』

「ふは、まぁそういうことにしといたるわ」

『リリーに宥められるん不満やねんけど』

また浮かぶ、あの顔、優しい顔
今までは半分片想い、半分大切な後輩
東京いって純度100%、可愛い後輩って思えるようになるんやって決めていた

好きだと真剣に伝えてくれたあのやり取りを思い出す
でも、もう東京に行く、距離ができる
これ以上不安を増やしたくない、
付き合ってせめるに嫌われたくない
これから売れていくであろう後輩の重荷になりたくない

「…まだ時間あるんやし、出来れば解決して行った方がええと思うで、俺は」

『…わかった、ありがとう』

いつかの別れを考えれば、今嫌われた方がいい
きっとその方がいい、
私にとっても、彼にとっても

…