煙に巻かれて【短編集】 (ページ32)

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( side A

隠れたところから出る寸前に、次々と通知がなった

辻浩平ごめん、実は俺も寝坊してんまだ着いてないからいそがないで
ゆっくり準備して
ほんで家で待ってて、迎えに行くから
メッセージ、気づいてくれ!
今から行くから家におってな!

いや、もう、そこにいるじゃ、
溜まった通知をクリックできない
全部嘘やん、もう辻さんは着いてるのに

ずっと画面を見て、既読つくのを確認してるのかな
だって既読が着いたら寝坊してる設定の私は、きっとその言葉を信じてゆっくり準備すると思う
甘すぎる、この人は本当にもう、

『辻さん！』

足早に駅の方向に向かうその背中に抱きついた

「え、A？」

『辻さん！ちょっと優しすぎます、なんなんですかもう』

「え、まだ俺なんもわかってへんのやけど…ちょっと怒ってるし」

『彼女が寝坊したんですよ、もっと焦るとか怒るとかせんと、優しい顔すぎます』

「いや、Aのことやから、起きて絶望してLINE送ってきたんやろうなって、それ想像したら可愛いし。ほんでドジやから急ぎすぎて鍵かけ忘れたり、コケたりしたら心配やなって思って」

『…あーもう、好きです』

「ん、俺も……てことはこれ騙してたんか」

『なんか来たらもう着いてはったから、いじわるしたくなって』

「ふーん、いじわるねぇ」

『反省、反省してます！』

ぐっと覗き込まれて目が逸らせない
また私ばっかりどぎまぎしてる
怖い顔してるつもりかもしれないけど、
口角上がってるのがばればれで、
なんて言われるかが怖い

「じゃあ今日は俺もAの家帰ろ」

『…泊まりってことですか、？』

「うん、そういういじわる」

『それ半分ご褒美ですけど…』

「…ちょ、Aこそ、あんま可愛いことしすぎるんやめてな、こっちが持たへん」

見上げると辻さんは顔を手で隠していて、
でもほんのり赤くなった頬が隙間から見えた

一緒だったんだ、嬉しくなって手を繋いだ

『辻さん、大好きです！』

…