煙に巻かれて【短編集】 (ページ27)

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( side A

「なんかさ」

『うん？』

「なんか今日A、元気ないように見えて」

『…』

「家帰って、いざ寝るぞって横になったら、今日のAのこと思い出して、そしたら心配になっちゃったから来たんよ」

今日、新ネタが思ったよりウケなくて
それで相方とちょっと空気悪くなって
お陰で次の出番もふわふわして、出来が良くなかった

誰にもバレてないと思っていたのに
いつもそう、気づいてくれる
そんな感じも出さず、後からこっそりフォローしてくれる

『あーあ、誰にもバレてないと思ってたのに』

「ウケがいまいちやったからなー」

『国ちゃんうるさい』

「うそうそ、多分俺以外気づいてないよ。誰かと話してる時はちゃんといつものAやったよ」

『……じゃあなんで国ちゃんは気づいちゃったのさ』

「俺がAのことよく見てるからやない？」

『やない？って聞かれても…というかその言い方誤解を生むよ』

「どういう誤解…え、俺がAのこと好きみたいってこと！？」

『あはは、そうそう。あのネタみたいな言い方しないでよ』

「あーじゃあ誤解やないね」

『へ？』

「言ってなかったけど、俺、Aのこと好きだよ」

『……突然すぎない？』

「こんな夜中に来る時点で気づいてよ」

そう言ってだんだん狭まる距離
いつのまにか、私の手に国ちゃんの手が重なっていて

『まって、まって、』

「もう結構待った」

『……あの、私も、私も好き、国ちゃんのこと』

「……ほんと？」

少し眉をひそめて聞いてくる顔が愛しい
ほんとだよ、と返せばきゅっと細まった目
わしゃわしゃっとされた髪の隙間から見えた耳は真っ赤で、あぁもう、

『っていうか国ちゃんこそ気づいてよ。こんな夜中に家あげるなんて特別なんだよ』

…