煙に巻かれて【短編集】 (ページ26)

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たいがいに kunizaki.k ページ26

( side A

国ちゃんの笑った顔が好きだ

くしゃっとちっちゃくなって、手を添えて、
いたずらっ子のように笑う時が特に

『だけど絶対、今じゃない！』

「A、どうしたの急に」

『こっちが聞きたいってば』

今は夜中の1時、会う約束なんてしていない

寝ていたところにピンポンがなって、
無視していたら何度も繰り返しなって、
怖くなってインターフォンを見たら
知った顔の黄色いジャージが映っていた

夜中に押しかけてきた人とは思えないくらい、さっきからずっとケラケラ笑っていて
帰る気は全く感じられない

『ねぇ、お酒飲んだでしょ？』

「あはは、何回聞くんよ。酔ってないってば」

『むしろ酔ってて欲しかったんだけど…じゃなきゃこんな夜中に来る意味がわからない』

「Aに会いたくなったからって、これもさっきいったよ」

『本当は？』

「ほんとのほんとよ」

『……あーもう、国ちゃんに理由を聞こうと思った私がバカだった』

会いたくなった、なんて
どこの少女漫画のイケメンのセリフなの、
そう言いたいのに、国ちゃんだから言えない

ずっと好きだったから、言えない

今こうやって夜中に押しかけられているのだって
他の人だったらまず家に上げないよ
国ちゃんだから平気なんだよ、
なんてもっともっと言えない

…