煙に巻かれて【短編集】 (ページ17)

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．ページ17

( side 健人

くしゅん、後ろからくしゃみをする音が聞こえて、仕方なく立ち止まる

どうしたの、と言いたげにとろんとした目をしながら首を傾げたAに自分のパーカーをかけて、そこで初めて今日の服装をまじまじと見た

服は身体の線がわかる薄さで、胸元があいている
耳元にはピアスが揺れていて、化粧も少ししているらしい

どうせ下品な男の芸人しかおらんのやから、せんでもええやろ
急にさっきの介抱していた男を思い出して、無性に腹が立ってため息をつく

もっと危機管理しっかりしろよ、と心の中で吐き捨てるが、
なにもしらないAはふへへとだらしない笑いをもらしながら

『けんと、きょうもかっこいいね』

だなんてほざいている
ほら、そういうところや、全部

「なぁ」

『ん〜？』

「今から俺がすること、覚えてたらあかんで」

諦めたようにもう一度ため息をついて吐き出すと、Aは明らかに頭の上にはてなマークを浮かべて、ゆっくり瞬きをした

どうして、どうしても
何度か同じラリーをして、長い時間考え込んで『わからへんな〜』という返事が返ってきた

はぁ…Aがバカなん忘れてた

「じゃあ覚えてたら電話して」

羽織らせたパーカーの裾をグッと引っ張り、
見開かれた目を視界に捉えながら顔を近づけた

行動に移してしまうと、
やっぱり忘れたなんて言わせたくないな

…