煙に巻かれて【短編集】 (ページ16)

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( side 健人

『ねぇ！けんと、いまわたしのかれしってゆうた！！』

「ちゃうわ、面倒事になんの嫌やっただけや。誰がAなんかと付き合うか」

嬉々としてしがみついてきた体を振り払い、そそくさと歩き出す

『あ、まってや〜』
そう言いながらAが小走りで着いてくる

「てか、なんで弱いのに酒飲むねん」

『やって〜、つがれたらのまなあかんやん？』

「ならそもそも行くなって何回も言うてる」

『けんときてくれるってわかってるも〜ん』

「ほんまアホやな」

えへへ、と笑いながらAは相変わらず、ちょこまかと後ろをついてきて、イライラしながら俺が説教をして、それをAは聞き流す

思えばずっと俺たちはこんな感じだ

家が隣で親同士が仲が良かったから、物心つく頃からAとは腐れ縁だった

好きなもの、嫌いなもの、全部真似して、どこへだって後ろに着いてきた

幼稚園、小学校、中学校、高校、とずっと同じ学校に通って、やっと社会人となってくれて離れられると思いきや、

NSCにこっそり応募していて、

「私も芸人になりたいって思ったの、健人の真似やなくて！」だなんて

こうして腐れ縁生活は見事に続行、今では同じ劇場所属の同期だなんて、さすがに笑える

おまけにNSCの頃、芸人なんて男だらけで心配だけど、健人くんがいるなら安心、と両家の親が勝手に合意しアパートが同じにされた流れで、数回の引越しを経て今も同じマンションに住んでいる

人の気も知らないで人の人生に踏み込んできて、ちょこまかしぶとく着いて離れなくて、でもバカだから目も離せなくて

自分勝手で、うるさくて、色気もない
そんなAに振り回される俺

いつも俺を見上げてへらへら笑うところも、昔から『健人大好き！』なんて簡単に言えてしまうところも、何故か頭から離れないところも、全部嫌いだった

…