121話 ページ22
聖side
「トイレ長いと思ってきてみれば、何一人で溜息吐いてんだよ。あれか？血便か？」
「汚い事言わないでよ！そう言うんじゃないって！」
「冗談に決まってんだろ」と岳斗君は悪戯っ子の様に無邪気に笑う。
「何があったのか知らねぇけど、いつまでも溜息してんじゃねぇよ。今日は遊びに来たんだから、パーっと楽しもうぜ」
「うん、わかってるんだけど…」
「まだなんかあんのか？早く行こうぜ。あいつらを待たせっぱなしにする方がめんどくせぇから」
岳斗君はそう言って僕の背中を力強く叩き、トイレから出ようと出口に向かうが、僕は視線を落とし、一歩も動かずそこに佇んでいるだけだった。
そんな僕を見て、岳斗君は苛立ちを覚えたのかはぁ…と呆れた溜息を吐き僕の方へと向く。
「おい、聖。いつまでそうして───」
「僕、もう帰るね」
自然に口から出た言葉に岳斗君は目を見開く。
「は…？」
「これ以上僕が居たって、みんなの迷惑になるだけだ。後はみんなで楽しんでてよ。僕には本当は、みんなと一緒にいる権限なんて無いんだから」
「何言ってんだよお前、まさかまだあん時の事引きずってんのか？それはもう円満に解決したことだろ。何で今更蒸し返すんだよ」
「…嫌なんだよ、君達といるのが。忘れたい記憶が頭の中でよぎるんだ。戒めみたいに、ずっとずっと」
自分の髪をグッと掴み、あの子の事を思い浮かべる。
「今はそんなの関係ねぇだろ、過去は過去だ。引きずった所で何になるんだよ」
「君は知らないからそう言えるんだよ。知らないからそうやって、僕のプライベートにズカズカと入り込めるんだ。
本当なら、遊びの誘いだって断るつもりで居たんだ。でも…断らなかったら、君は無理矢理にでも僕を連れて行こうとするだろ？」
思ってもいない言葉が次々と溢れ出る。自分でも酷いことを言ってるのは自覚している。でも、歯止めが効かず勝手に口から出てくる。
「…なぁ、お前さっきから何様なんだよ」
さっきの陽気な態度とは一変し、威圧的な声を出し、鬼のような目つきで僕を睨みながらこちらに歩み寄ってくる。
「突然帰るっって何だよ、自分勝手も大概にしろ。あいつらがどんだけお前の事心配してたと思ってんだ。記憶がどーのこーの言われても、こっちにとっちゃどうでも良いんだよ。来たくなかったんなら最初から断れよ」
突き刺さるほど鋭い正論。だが、その正論は僕の心を傷つけるだけじゃ無く、僕の中の感情のブレーキをも壊した。
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