81話 ページ32
岳斗side
「セシル！！ 永也！！ 」
二人は呻き声を出すが、見るからにもう動ける状態ではなかった。
二人が動けないのを確認すると、魔隆は俺達の方を向き、笑みを浮かべながら挑発するように人差し指をクイッと曲げる。
「挑発……私達を倒せるとわかってるみたいね」
「そんな事言ってる場合じゃないわよ！ これからどうすんのよ！！ 」
「……撤退するぞ」
疾風は少し冷や汗をかきながら、真剣な表情でそう言う。
「オーバーレイヴン状態の俺でもあいつの装甲を貫けないのは目に見えている。援護が来るから後はそいつらに任せるぞ」
「な、なら、早くセシルちゃんと永也君を助け____」
「あいつらはこのまま置いていく」
「……え？ 」
疾風から出た冷酷な答えに、俺達は思わず耳を疑った。
「あの攻撃じゃ、もうまともには動けないだろう。魔隆は攻撃した2人を標的にしてるはずだ。その間に俺達は逃げるぞ」
「でも、あの二人を置いてくわけには……！ 」
「ダメ、撤退する時の邪魔になるだけ。切り捨てるのは他のブレイダー達だってしてる。助けたとしても、全滅は免れない。生きるにはそうするしかないのよ」
「いつだってブレイダーは死と隣り合わせ。死んでも自己責任なの。私達が生き残るには、あの2人を置いていくしかないわ。諦めなさい」
未鶴も月見も、疾風につられるように同じことを言う。
三人は遠回しに言ってはいるが、俺にはそれが「永也とセシルを囮にする」と言ってる風にしか聞こえなかった。
「あいつらを、見殺しにするってのかよ……」
「見殺しじゃない、戦略的撤退だ。あの魔隆はD級ブレイダーの討伐対象外だ。A級以上のブレイダーを待つしかない、それがアルティネイターの規則だ。黙って従え」
規則？ 戦略的撤退？ あいつら見捨てて俺達が生きるために逃げるって言うのか？ そんなの……仲間って、言えるのか？
「覚悟を決めよう、みんな」
そう言ったのは、まさかの聖だった。
「聖さん……！？ 」
「聖、何を言ってるでござるか！！ セシルは聖にとって大事な人なんじゃ____」
「もうこれしか方法がないんだよ！！ 僕だってこんな所で死にたくないんだ！！ ブレイダーの中でも最も最弱な僕が生きるには、大事なものを犠牲にするしかないんだよ！！ ずっと、そうやって生きてきたから！！！ 」
声を荒げる聖の目には絶望と恐怖が混ざり合い、光の無い虚ろな瞳になっていた。
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