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ひどく突飛な誘いに、ずっと抱えきったままの悶々としたこころが大きな水たまりに落ちてゆく細やかな雨と一緒に弾ける。漏れ出てしまいそうな本音を抑え込んで、表面上は落ち着いているように見せるが心臓の音は時間を追うごとに激しく鼓動を打つばかり。
親御さんは大丈夫なのかだとか、こんな夜中に申し訳ないだの私なりの断りを並べてぶつける。しかし、彼はすべてに対して、彼なりの答えを返してくるばかりで、ドッジボールのような会話が続く。




「そんな呼び止めるってことは、なにか用事でもあるの」
「さあな」
 



至極曖昧な返答に払拭できない疑問を抱いたまま、彼の背中についていく。
これだけ距離の近い場所に住んでいながらも高校はまったく違ったため、からっきし会う機会はなかった。寄っても親戚から送られてくる野菜のおすそ分けをしに行く時くらい。というより、時間が進むごとに幼馴染という枠組みで堅治の姿を見られなくなって、対面上でふたりで話すこと自体さえ恐れていたように思う。



乱雑に脱ぎ捨てられたサンダルの後ろに、邪魔にならないようにと自分のローファーを並べて、いつぶりかわからない床の感触を踏んだ。中学生までは毎日のように触れていたはずなのに、期間を空けてしまうとまるで初めて訪れた場所のような錯覚を起こしてしまう。部屋に続く階段を、一段、また一段とのぼっていけば既に部屋の前。異常なまでの緊張感に襲われて、雨に濡らされた首筋に冷や汗が流れる。人の部屋の前にいるだけでこんなに緊張したことがあっただろうか。



異様な空気感を感じながらももう部屋の中にいた。
座る場所に迷って本能で咄嗟にベットのスプリングに腰かけて、彼が口を開くのを待つ。小言でも飛んできそうだったがこんな時間に呼びつけたのは私だ。もう受け入れる態勢で待つしかない。だが待っていた言葉とは、正反対な言葉が投げ入れられたのであった。




「......明日晴れると思うか?」
「えっ?」




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作者名:藤村 | 作成日時:2020年5月22日 1時

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