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堅治の家からここまではおよそ10分ほど。距離は近いとは言え、到着まで待っているのは流石に忍びないので誰もいない部屋の電気を消して部屋を出た。


「......やば」

目の前に映るのは明らかに先程より雨脚が強まった景色。
雨は、針の如く突き刺して、一層強烈に屋根とアスファルトを叩きつけていた。道を歩く者が只一人さえ見えなくて、雨を背景にぼんやりと霞む夜空には寂しさだけが飽和していた。


「A!」


呼びかけられたような気がして振り返ってみれば、別に急かしたわけでもないのに、5分ほどで姿を現した彼は明らかに走ってきたと言わんばかりに息を上がらせていた。右手には体格の割に合わない小さな黒い折り畳み傘を刺しながら、もう片方の手には比較的新しく見えるビニール傘。目を丸くしたままのこちらの眼中を彼はほんの一瞬だけ窺う。そうするなり、私の肩にかかる鞄を持つから貸せ、とビニール傘を持ったままの左手を差し出してきた。細くしなやかでありながらも、異性だと感じさせる骨張った手。バレー部なだけあって手入れが行き渡っていた。

私は申し訳なさから謙遜するも頑なに意見を変えない目の前の男にこちら側が痺れを切らしてしまい、鞄と引き換えにビニール傘を受け取る。彼はそれが分かったや否や早足で進んでしまう。そんな1歩先を行く彼を見失わないように、必死に追いかけた。


「早いって」
「こちとらこの雨の中呼び出されたんだからな」
「ごめんって」
「とか言いながら反省してないだろ」
「反省してますけどー?」


唐突に始まる言い合いも、まるで兄弟の様。それでも私たちはただの幼なじみ。この関係性から戻ることもなければ、進み出すこともない。そう自分の中では割り切っていたものの、噛み砕けないままで心の中の陰りは消えないまま。この気持ちを私だけが持っているのだとしたら、自分ではどうすることもできない。そんな悶々としたこころをぶら下げたまま、気づかれないようにビニール傘を目線ほどまで下げてから、ちらりと視線を移してみる。堅治は折り畳み傘では防ぎきれなかったのか、前髪が雨のせいで湿気を含んでいて何とも鬱陶しそうな顔をしていた。

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作者名:藤村 | 作成日時:2020年5月22日 1時

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