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焦る気持ちを抑えながら親に連絡せねば、と思い立つ。しかし、今日は双方からの連絡で夜勤と残業だと聞かされていたので、。今から連絡を取ったところで無反応に違いないし、そもそもこんな時間に帰ってきているはずがない。ありとあらゆる手立てを全て絶たれた私は、スマホを片手に呆然とするしかない。

そうなると最終手段。
私は新品同然のスマホの連絡欄から「二口堅治」の名前を見つけて電話をかけた。



いち、に。



「なんだよ、A」



2回のコール音が鳴った直後に、スピーカー越しに聞こえる不機嫌そうな声色。
こんな真夜中にかけてくるアホは誰だといわんばかりの感情と牽制の意を乗せている。こんな早い時間に寝る準備というのは到底あり得ないので、おそらく同級生とでも連絡を取り合っていたのだろうと勝手な推測をしてみる。だが、こんなのに圧制されてちゃあ、私はこの悪天候で暗闇に包まれた中をたった一人で歩いて帰ることになってしまうので、無理やり牽制を振り切る。



「堅治、迎えに来て」
「は?今雨降ってるしこんな中行くわけないだろ」
「傘忘れて帰れないんだけど、大事なテスト受けんなって言ってるわけ?」
「...わぁったよ、場所は」
「塾、場所は分かるよね?」
「分かるからいい、今から行く」
「じゃ、待ってるから」



その一言を最後に、間を置いてぶつり、と電話が切れた。もう何度目の無理強いをしているんだかわからない。両手で数えても数えきれないくらい、否、思い出せていないだけでほんとうはもっとあったりするのかもしれない。でも彼も、長年の付き合いの中で私がこういう人間だということを分かりきっている。ぶつくさ言いながらも案外あっさりと了承してくれるあたり、断るという選択肢があるということをとうの昔に忘れてしまっているらしい。

堅治の家からここまではおよそ10分ほど。距離は近いとは言え、到着まで待っているのは流石に忍びないので誰もいない部屋の電気を消して部屋を出た。

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作者名:藤村 | 作成日時:2020年5月22日 1時

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