夜殺し【二口堅治】 (ページ1)

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テスト勉強に没頭してしまっていたことに気づいて辺りを見回す。
午後9時半の自習室には、既に私以外の人影はなかった。それに気づくと同時に、見回りをしていたのであろうチューターの先生が、老朽化が進んで開けにくくなったドアをまあ大変そうに開ける。もう夜遅いし早く帰りなよ、と私に一声掛けるとそのままどこかに消えてしまった。

｢もうそんな時間経ったっけ、｣

気になって窓ガラスから外の様子を窺ってみれば、鼠色のどんよりとした雲がちいさく光る星たちと、手を伸ばしても人間の掌中には一切収まろうとしない月を一瞬で隠してしまった。
そういえば今日は雨が降ると、天気予報で人の良さそうな女性アナウンサーが言っていたことを思い出す。

散乱した教科書や筆記用具をまとめて、スマホに白いイヤホンを刺す。そして、3年間愛用しているうちにいつのまにか生地が破れかけてしまっていた紺色の通学用鞄を背負うが、その場を立ち去ろうとする前にふと傘を出すのを忘れていたことに気づく。帰っている途中に雨に降られたらたまったもんじゃない。

｢ええと、傘は.....？｣

傘を鞄の中から探してみるが、傘の代わりに中から出てくるのは、なくしたと思われていたお気に入りのボールペン。それと昼に買ったコンビニおにぎりの包み紙だけ。ちゃんと入れたはずなのに！と1人で焦燥しているうちに、先程の雲が空全体を覆い尽くしていたらしく、数秒も経たないうちにぱらぱらと雨が降り出してしまっていた。

このまま雨の中を帰って参考書がびしょ濡れになるのも困るし、確定で風邪を引くであろう未来が見え見え。
周りと差をつけるために、遊ぶ間も寝る間も惜しんで家に限らず、自習室にまで押しかけて勉強しているのにテストを受けれないだなんて水の泡。しかも、今回のテストは大学入試に大きく響くことになるもの。そんな重要なものを落としてしまえば、現時点でも周りからだいぶ遅れを取っているというのに、余計絶望の淵に立たされることになるのは分かり切っていた。

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