54.“お話”の最後 ページ18
お芝居とは、私と遥が思い出の花園でやった即興芝居の台詞。どこまでも続き、端の見えない花畑に迷い込んだ青年と、そこにずっと一人でいる少女のお話。二人で過ごしているうちに、お互いを意識し始める。でも、ある日に少女は「もうあなたとお別れしないといけない」と寂しそうに呟く。それを聞いた青年は彼女といることを選択する。
その時のお芝居。私が口にしたのは、そのお芝居の終盤の台詞だった。
青年『僕、君といる。ずっと。ここから離れない』
少女『そんな。そうしたらあなたはずっとここから出られなくなる。そうなったら、いくら望んでももうお家には帰れなくなるのよ』
青年『それでもいい。僕は君といたい。それが出来るなら、僕は何も望まない』
少女『……』
青年『お願い。僕に命令をおくれ』
少女『え？』
青年『僕はずっと君に従える。だから、命令をちょうだい。君はお姫様で、僕はその家来！』
少女『……本当に、いいの？』
青年『もちろん。どうぞ』
少女『……なら……言うね。……この先も、私に従うことを、貴方に命ずる』
青年『貴女が望むなら、花園のお姫様』
今思い返せば、あのとき考えたお話は現実味もなく、なんだかパッとしないし内容も変だ。よっぽど脚本が下手だったと見える。
でも、これだからいいんだ。私と遥の、初めてで大切な“お話”なのだから。
遥は零れる涙を拭い、精一杯の笑顔で続けた。
遥「『……ありがとう、私に、大切な時間をくれて。貴方が私にくれた時間以上に、貴方を愛してあげるね』」
それを聞くと、お話の台詞なのに胸がいっぱいになる。私もまた溢れそうになる涙をこらえ、最近までなかった笑顔で最後を閉める、その台詞を口にした。
理奈「『僕もだよ。君は僕が守る。ずっとずっと、愛しているよ』……遥、ありがとう……もう、絶対逃げないから」
その言葉に、遥が再度抱き締めようとした、その時。
杏「……よかったぁ〜！！」
ずっと黙っていた杏が我慢出来ないと言うように私と遥に抱き付いた。それには私も遥もビックリだ。
理奈「ちょ、杏痛い」
杏「あッ、ごめん。つい……」
遥「もう……杏も落ち着きないんだから」
杏「遥だってそうだったじゃん！」
理奈「病院の中はお静かに」
遥と杏の言い争いになる前に釘を刺す私。その様子を、一歌と咲希ちゃんは楽しそうに見ていた。
春は、まだ続いている。
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ぽっカラ(プロフ) - ふゆさん» 読んでくださり、誠にありがとうございました！楽しんでもらえてとっても嬉しいです！まだまだ拙い文章しか作れませんが、よろしくお願いします！ (2022年1月4日 15時) (
レス) id: c1afce4da1 (このIDを非表示/違反報告)
ふゆ - コメント失礼します。ランキングから見つけて一気読みさせていただきました。透明感のある、きれいで良いお話でした。最終的にとても良いハッピーエンドを迎えられてよかったです。私もこんな繊細で美しい文章が書けるようになりたいです。ラストまで、お疲れ様でした! (2022年1月3日 23時) (レス) @page21 id: cbb6d6ebb3 (このIDを非表示/違反報告)
ぽっカラ(プロフ) - ツクヨミさん» 読んでくださり、誠にありがとうございました。 (2021年12月19日 19時) (レス) id: c1afce4da1 (このIDを非表示/違反報告)
ツクヨミ(プロフ) - いい話でした、お疲れ様でした (2021年12月19日 18時) (レス) @page21 id: 8fcd9949a5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ぽっカラ | 作成日時：2021年6月20日 15時
