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最後に見た蘭くんは髪が長くて、三つ編みにするのを好んでいた。
黒と金の独特なツートンカラーがよく似合い、すらっとしたモデル体型で穏やかそうな雰囲気を纏う垂れ目。
それが、私の記憶に焼き付いて離れない、灰谷蘭の姿。
12年間という時間はあまりにも長く、何もかもが変わっていて当たり前だった。
だけど、至る所に面影を残しているから、まだ捨てきれなかった恋心が再び熱を帯びる。
「蘭くん、どうして…ここが…、」
あの日を境にいくら待ち続けても、蘭くんは帰って来なかった。電話を掛けても繋がる事はなかった。
別れようって言われるのが怖かった。
一人置いて行かれる寂しさに押し潰されそうだった。
だから、離れたのに。
迎えに来たと言った蘭くん。
どうしてここが分かったの、そう問おうと口を開いた後に先程の台詞が蘇る。
昨日の事件のことで話を聞きたい、と。
「…何で、事件のこと、知ってるの…?」
ニュースを見たとして、私が映っているわけでも、目撃者がいたとも報道されていない。
抜けきっていない疲労と寝不足による思考力の低下に、頭の中がぐちゃぐちゃに絡まる。
足が震えて立っていられず、思わず小さく声を漏らしながら玄関に座り込んだ。
大丈夫か、頭上から優しい声が降り注ぐ。
「俺は何でも知ってンの。」
両頬に手を添えられて、目線を合わせるように顔を上げられる。
薄紫色の瞳はどこか悲しげな色を帯びているような気がして、気まずさから視線を落とした。
そうして気付く。スーツの裾に、赤黒い染みがいくつもあることに。
その正体は考えるまでもなく、答えは一つしかなかった。
「なーんてな…♡」
「蘭くんッ…!」
勢い良く顔を上げれば、顔の横にジッパーバッグを翳している蘭くんがいた。
にっこり、その表現が似合う、綺麗な笑みを浮かべて。
「これ、なーんだ?」
画面の中央に穴が開き、真っ暗なまま二度と点灯することのないスマホが入っていた。
見間違えるわけもない、昨日まで私の手にあった物。銃で撃ち抜かれて、恐怖で捨て置いてきた物だった。
「じゃ、行くか。」
「や、だ…。」
「ダーメ。帰るぞ、俺らの家に。」
目の前にいる人は、私の知っている灰谷蘭じゃない。
そう気付いて涙が滲むのと同時に、口内に錠剤を入れられた。驚きからつい飲み込んでしまい、吐き出せないまま嗚咽を漏らす。
「愛してる。」
意識を手放す前、彼は確かにそう言った。
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れん(プロフ) - まゆさん» まゆさま、コメントありがとうございます!お褒めの言葉、とても嬉しく思います!「一生幸せ」も読んでくださってありがとうございます☺️全然系統が違うのに一気読みしていただけて嬉しいです!これからも楽しんでいただけるよう頑張ります✨ (3月18日 19時) (レス) @page23 id: 160e1714c7 (このIDを非表示/違反報告)
まゆ - 初コメ失礼致します。お話が面白くメチャクチャ引き込まれてしまい、気づいたら一気に読んでしまいました!あと実は、れん様の他の蘭君のお話しも一気に読ませていただきました!どれも最高に良かったです!!更新頑張ってくださいね。応援しています。 (3月18日 8時) (レス) @page23 id: e4a4033c2e (このIDを非表示/違反報告)
れん(プロフ) - とわさん» とわさま、コメントありがとうございます!沢山の蘭くんの小説の中からこちらを見つけてくださって嬉しい限りです!貴重なお時間を使って読んでいただいている分、面白かったと思ってもらえるようなお話に出来るよう頑張ります☺️ (3月16日 1時) (レス) @page21 id: 160e1714c7 (このIDを非表示/違反報告)
とわ - 蘭くんの小説探してたらみつけたんで読ませていただいてます!めっちゃいいっすね…まじ好きな感じできてて… これからも読ませていただきます!応援してます!頑張ってください! (3月15日 3時) (レス) @page21 id: 8407209a34 (このIDを非表示/違反報告)
れん(プロフ) - kizunaさん» kizunaさま、コメントありがとうございます!こちらのお話にも遊びに来てくださって本当に嬉しいです☺️更新頑張りますので、またお暇な時に読んでいただけたら幸いです…! (2月23日 21時) (レス) id: 160e1714c7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:れん | 作成日時:2024年2月23日 0時