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「私さ、今、嘘吐くくらい余裕なくて、…だから、」

「おいで。」



先にソファへ腰を下ろしてAを見上げる。

動揺しながら視線を泳がせ立ち尽くすAに優しく声を掛けた。隣へおいでと軽く手を引けば、諦めたように頷いてAが横に座った。


テーブルに置かれたAのスマホは画面が伏せられていた。

画面の向こう側にあるものを隠すような置き方に違和感を感じたのと同時に、何となく嫌な気配を察して話をしようと切り出した。



「いろいろ聞きたいけど、まずは…ただいま。」

「蘭くん、お帰りなさい。」



目と目を合わせて交わす挨拶はあの頃の思い出を蘇らせ、胸の中がAでいっぱいになる。

ずっとこうしたかった。当たり前の挨拶が出来る二人に戻りたいと願っていた。今日からまた俺達は一緒なんだと改めて実感し、嬉しさに頬が緩む。



「帰ってきてくれてありがとう。」

「何だよそれ。ちゃんと帰ってくるって言ったろー?」

「なんか安心したって言うか、そんな感じ。」



帰ってきて安心したということは、帰ってきて欲しいと願ってくれていたということ。

Aからしたら12年前に俺が音信不通になって、それが今でも心の中に消えない傷を残しているのだろう。

同じような傷は俺にもあるけれど、お互い様とは言いたくない。理由があったにせよ、好きな女を途方も無い悲しみに突き落としたことは事実なのだから。


そっと頬に触れれば、少し驚いたようにぴくりと体を揺らして俺に顔を向ける。じっと瞳を見つめれば、察したようにゆっくりと瞼を下ろした。



「Aの蘭くんはちゃんと帰ってくるから安心しろ。」



頷いたのを確認してからぎゅっと抱き締め、唇をそっと重ねた。

思い描いていたようなお帰りのキスではないけれど、これはこれで幸せだ。

俺のスーツをきゅっと掴む手がどこにも行かないでと訴えているみたいで心底愛おしい。


唇を離せば先程よりも顔色の良くなったAが、少し恥ずかしそうに下を向いていた。



「で、何があった?」

「や、ほんとに、大したことじゃない。」

「いいから。」



はぐらかされないようしっかりと手を繋いで、Aの言葉を待つ。観念した様子のAは「うーん」と困ったように唸り、やがてその口を開いた。



「私、警察に捜されてる…?」



ああ、やっぱり。

先程見たスマホの違和感の正体はこれだったのかと納得し、どうしたらその不安を拭えるのかと必死に頭を働かせた。

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れん(プロフ) - まゆさん» まゆさま、コメントありがとうございます!お褒めの言葉、とても嬉しく思います!「一生幸せ」も読んでくださってありがとうございます☺️全然系統が違うのに一気読みしていただけて嬉しいです!これからも楽しんでいただけるよう頑張ります✨ (3月18日 19時) (レス) @page23 id: 160e1714c7 (このIDを非表示/違反報告)
まゆ - 初コメ失礼致します。お話が面白くメチャクチャ引き込まれてしまい、気づいたら一気に読んでしまいました!あと実は、れん様の他の蘭君のお話しも一気に読ませていただきました!どれも最高に良かったです!!更新頑張ってくださいね。応援しています。 (3月18日 8時) (レス) @page23 id: e4a4033c2e (このIDを非表示/違反報告)
れん(プロフ) - とわさん» とわさま、コメントありがとうございます!沢山の蘭くんの小説の中からこちらを見つけてくださって嬉しい限りです!貴重なお時間を使って読んでいただいている分、面白かったと思ってもらえるようなお話に出来るよう頑張ります☺️ (3月16日 1時) (レス) @page21 id: 160e1714c7 (このIDを非表示/違反報告)
とわ - 蘭くんの小説探してたらみつけたんで読ませていただいてます!めっちゃいいっすね…まじ好きな感じできてて… これからも読ませていただきます!応援してます!頑張ってください! (3月15日 3時) (レス) @page21 id: 8407209a34 (このIDを非表示/違反報告)
れん(プロフ) - kizunaさん» kizunaさま、コメントありがとうございます!こちらのお話にも遊びに来てくださって本当に嬉しいです☺️更新頑張りますので、またお暇な時に読んでいただけたら幸いです…! (2月23日 21時) (レス) id: 160e1714c7 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:れん | 作成日時:2024年2月23日 0時

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