27 ページ27
蘭くんが出て行ったドアの前で立ち尽くしたまま、どれだけ時間が経っただろう。
そっと唇に指を宛てがうと、まだ熱を持っている気がして心拍数が上がるのを感じた。
キスという行為は、あんなにも心地良いものだったっけ。まるで初めてキスをした時のような高揚感があったように思う。
蘭くんが私の前から姿を消したあの日から誰とも唇を重ねることはなかった。
早く忘れたくて、前を向きたくて、彼氏を作ろうと努力した。
合コンにも行ったし、数少ない友達に男の人を紹介してもらったりもした。20代も半ばに差し掛かってからは婚活にも精を出した。
それでも、私の中から蘭くんが消えることはなかった。
どんな人を目の前にしても、ときめきを感じなかった。いろんな人と沢山出会ったけれど、誰一人として蘭くんより素敵な人はいなかった。
でも、それで良かったのかもしれない。
結果論でしかないけれど他の人との恋を知らないまま生きてきたから、こうしてまた蘭くんと出会えたのだろう。
リビングに戻って壁一面の窓の前に立つ。
昼間とは打って変わって、ガラスに雨粒が当たっている。いつの間にか天気は雨に変わっていた。
傘は持っているのかな。ああでも、大人になった今なら車があるのかな。
相変わらず今の蘭くんについて殆ど知らない私は、ただじっと彼が帰ってくるのを待っていることしか出来ずにいた。
夜になったら一緒に夜景を見ようと言ってくれた。覚えているか分からないけれど、今はそれを楽しみにしている自分がいた。
だって、愛してるって言ってくれたから。それが嘘じゃないって信じたいから。
「…信じたい、か…。」
ああ、まただ。
信じたい、信じてる。そんな言葉を使わないと平静を保てない自分にうんざりする。
信じさせてみせてなんて、随分と偉そうなことを言ってしまった。
本当はちゃんと分かっている。蘭くんが私を大切に想ってくれていることくらい。
数え切れないくらい沢山の愛情を貰った。あの頃の私は何一つ疑いもせず、蘭くんが与えてくれる愛を受け入れてきた。
過去を引き摺りすぎて、嫌な大人になってしまったと自嘲する。
あの日の悲しみを忘れることは出来ないけれど、もう一度やり直してまた幸せだと思える日々を送りたい。
蘭くんが帰ってきたら、ちゃんと話をしよう。そう決意して懐かしさが漂うテーブルチェアに腰掛けた。
どうか無事で、早く帰ってきてと、雨が降り続ける窓の外を眺めながら願った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 195人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
れん(プロフ) - まゆさん» まゆさま、コメントありがとうございます！お褒めの言葉、とても嬉しく思います！「一生幸せ」も読んでくださってありがとうございます☺️全然系統が違うのに一気読みしていただけて嬉しいです！これからも楽しんでいただけるよう頑張ります✨ (3月18日 19時) (
レス) @page23 id: 160e1714c7 (このIDを非表示/違反報告)
まゆ - 初コメ失礼致します。お話が面白くメチャクチャ引き込まれてしまい、気づいたら一気に読んでしまいました！あと実は、れん様の他の蘭君のお話しも一気に読ませていただきました！どれも最高に良かったです！！更新頑張ってくださいね。応援しています。 (3月18日 8時) (レス) @page23 id: e4a4033c2e (このIDを非表示/違反報告)
れん(プロフ) - とわさん» とわさま、コメントありがとうございます！沢山の蘭くんの小説の中からこちらを見つけてくださって嬉しい限りです！貴重なお時間を使って読んでいただいている分、面白かったと思ってもらえるようなお話に出来るよう頑張ります☺️ (3月16日 1時) (レス) @page21 id: 160e1714c7 (このIDを非表示/違反報告)
とわ - 蘭くんの小説探してたらみつけたんで読ませていただいてます！めっちゃいいっすね…まじ好きな感じできてて… これからも読ませていただきます！応援してます！頑張ってください！ (3月15日 3時) (レス) @page21 id: 8407209a34 (このIDを非表示/違反報告)
れん(プロフ) - ｋｉｚｕｎａさん» ｋｉｚｕｎａさま、コメントありがとうございます！こちらのお話にも遊びに来てくださって本当に嬉しいです☺️更新頑張りますので、またお暇な時に読んでいただけたら幸いです…！ (2月23日 21時) (レス) id: 160e1714c7 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：れん | 作成日時：2024年2月23日 0時
