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陽も傾いてきた頃、腹が減ったとAがぽつりと呟いた。

朝食を摂ったのかは知らないが、朝早くから連れ去ってついさっきまで眠っていたのだ。腹が減って当然だし、俺も空腹なのは同じだった。


昔はよく飯を作ってくれたっけ。高校生だったAが俺を喜ばせようと不慣れながらも頑張ってくれていたのを知っている。

どれも美味かったし、俺の為に作ってくれたことが何よりも嬉しかった。懐かしい思い出に耽り、また胸の中が温かくなる。



「よかったら、ご飯作ろうか?」

「Aの飯好きなんだけど、今何もねえんだよ。冷蔵庫も、材料も。」



元々自炊なんてしたことがないし、する気がない。この部屋を買ったのは割と最近の話だから冷蔵庫すら買っていない。

これからはAと二人で生活していく。他のセーフティハウスは勿論、何なら本当の家だって不要かもしれない。

これから毎日、帰ってくるのはAが待つこの部屋になる。


なんて、幹部が聞いたらふざけるなと言われるに決まっているんだろうな。


それくらい本気だし、それくらいAが必要なのだ。

誰に分かってもらえなくてもいい。もう二度と離さないと誓った言葉に嘘偽りはないのだから。



「冷蔵庫すらないとは思わなかった…。」

「すぐ買うからもうちょい待ってな。食材は宅配サービス使えばいいし、とりあえず今日は出前でいい?」



何でもいい、いつも通りにしてくれていいと、Aが頷いた。

いつもは仕事ついでに外で済ませているからどうしたものかと考えた末、最近食べる機会のなかった宅配ピザでも取ろうとスマホを手に取った。


Aはマルゲリータが好きだったはず。サイドメニューはいつも決まってポテトで、デザートはアップルパイ。お決まりの組み合わせはちゃんと覚えている。

10年以上も経てばある程度店舗のメニューは変わっていた。それでも、好きな食べ物が嫌いになっていることはないだろうと注文ボタンを押した。



「3、40分くらい待てるか?」

「平気。何頼んだの?」

「ピザ。」

「最近食べてないから楽しみだなぁ。」



一人暮らしをしていたら宅配ピザを食べる機会なんてないからと、窓の外を眺めながらAが呟いた。

そうか、そうだよな。

俺には竜胆がいたけれど、一人っ子で親元を離れて生活していたAはずっと一人ぼっちだったんだな。


もう大丈夫。今日からまた二人に戻ったから。何をするにも一緒だから、また二人でたくさん笑い合おうな。

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れん(プロフ) - まゆさん» まゆさま、コメントありがとうございます!お褒めの言葉、とても嬉しく思います!「一生幸せ」も読んでくださってありがとうございます☺️全然系統が違うのに一気読みしていただけて嬉しいです!これからも楽しんでいただけるよう頑張ります✨ (3月18日 19時) (レス) @page23 id: 160e1714c7 (このIDを非表示/違反報告)
まゆ - 初コメ失礼致します。お話が面白くメチャクチャ引き込まれてしまい、気づいたら一気に読んでしまいました!あと実は、れん様の他の蘭君のお話しも一気に読ませていただきました!どれも最高に良かったです!!更新頑張ってくださいね。応援しています。 (3月18日 8時) (レス) @page23 id: e4a4033c2e (このIDを非表示/違反報告)
れん(プロフ) - とわさん» とわさま、コメントありがとうございます!沢山の蘭くんの小説の中からこちらを見つけてくださって嬉しい限りです!貴重なお時間を使って読んでいただいている分、面白かったと思ってもらえるようなお話に出来るよう頑張ります☺️ (3月16日 1時) (レス) @page21 id: 160e1714c7 (このIDを非表示/違反報告)
とわ - 蘭くんの小説探してたらみつけたんで読ませていただいてます!めっちゃいいっすね…まじ好きな感じできてて… これからも読ませていただきます!応援してます!頑張ってください! (3月15日 3時) (レス) @page21 id: 8407209a34 (このIDを非表示/違反報告)
れん(プロフ) - kizunaさん» kizunaさま、コメントありがとうございます!こちらのお話にも遊びに来てくださって本当に嬉しいです☺️更新頑張りますので、またお暇な時に読んでいただけたら幸いです…! (2月23日 21時) (レス) id: 160e1714c7 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:れん | 作成日時:2024年2月23日 0時

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