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物音にうっすらと目を開ければ、真っ白い天井がいっぱいに広がっている。
大きなベッドには私だけが横たわっていて、隣には蘭くんがいなかった。
けれど、不思議と寂しさはなかった。
彼がいない日々に慣れきっていたせいか、別の部屋にいると確信があるせいか。
ぼんやりしたまま、壁の向こうから聞こえる物音に耳を立てる。
数人の足音と、物を置く音。
今朝まで住んでいた私の部屋から運び出された荷物が搬入されているのだと分かった。
開けていいものか躊躇したが、いつまでも寝室にいるわけにはいかない。
勝手にうろうろしてごめんと心の中で謝りながら、そっとスライドドアに手を掛けた。
「…蘭くん、」
小さく名前を呼び、半身を乗り出して視線だけ動かす。
窓際に置かれたテーブルに肘をつき、足を組んでスマホを弄っていた蘭くんが顔を上げた。
すっと立ち上がり私の前まで来てくれて、優しく髪を撫でられる。
「おはよ。煩くしてごめんな?」
「ううん、大丈夫。」
蘭くんの後ろへと視線を移し、はっとなる。
「あれ、…、」
まるで引き寄せられるかのように、テーブルへと足が進んだ。
窓際に置かれた綺麗な木目調のテーブルは、高校生だった私がその時一番綺麗だと思ったホワイトアッシュによく似ている。
そっと指先でなぞれば、まだ新しいのかサラリとしていて傷一つなかった。
「気付いた?」
蘭くんが用意したこの部屋は、まるであの時の懐かしい部屋へとタイムスリップしたかのような空間だった。
広さは変わっていても、家具の見た目や配置は記憶の奥底に眠る12年前を呼び起こす。
そして思い出す。
寝室で感じた不思議な感覚。あれは気のせいではなかったのだ、と。
真っ白なベッド、真っ白な壁、真っ白なカーテン。
窓際に置かれたホワイトアッシュのテーブルと椅子。
視線を横に移せば、ガラスのローテーブルと革張りの二人掛けのソファ。
どれも全部、17歳の私が選んだ物と瓜二つだった。
12年前を最後に出て行った、二人の思い出が詰まった部屋を忠実に再現しているのだと気付いた。
蘭くんは今でも、ちゃんと覚えていてくれたんだね。
背後から腕が伸びてきて、包み込むようにそっと抱き締められる。
「足りない物はまた一緒に選ぼうな。」
また一緒に、か。
「これがいい」と選べば、「それでいい」って言うんでしょ。
私が選んだ物だから、何一つ文句を言わなかったことくらい知ってたよ。
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れん(プロフ) - まゆさん» まゆさま、コメントありがとうございます!お褒めの言葉、とても嬉しく思います!「一生幸せ」も読んでくださってありがとうございます☺️全然系統が違うのに一気読みしていただけて嬉しいです!これからも楽しんでいただけるよう頑張ります✨ (3月18日 19時) (レス) @page23 id: 160e1714c7 (このIDを非表示/違反報告)
まゆ - 初コメ失礼致します。お話が面白くメチャクチャ引き込まれてしまい、気づいたら一気に読んでしまいました!あと実は、れん様の他の蘭君のお話しも一気に読ませていただきました!どれも最高に良かったです!!更新頑張ってくださいね。応援しています。 (3月18日 8時) (レス) @page23 id: e4a4033c2e (このIDを非表示/違反報告)
れん(プロフ) - とわさん» とわさま、コメントありがとうございます!沢山の蘭くんの小説の中からこちらを見つけてくださって嬉しい限りです!貴重なお時間を使って読んでいただいている分、面白かったと思ってもらえるようなお話に出来るよう頑張ります☺️ (3月16日 1時) (レス) @page21 id: 160e1714c7 (このIDを非表示/違反報告)
とわ - 蘭くんの小説探してたらみつけたんで読ませていただいてます!めっちゃいいっすね…まじ好きな感じできてて… これからも読ませていただきます!応援してます!頑張ってください! (3月15日 3時) (レス) @page21 id: 8407209a34 (このIDを非表示/違反報告)
れん(プロフ) - kizunaさん» kizunaさま、コメントありがとうございます!こちらのお話にも遊びに来てくださって本当に嬉しいです☺️更新頑張りますので、またお暇な時に読んでいただけたら幸いです…! (2月23日 21時) (レス) id: 160e1714c7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:れん | 作成日時:2024年2月23日 0時